『戦術リストランテⅦ』発売記念!西部謙司のTACTICAL LIBRARY特別掲載#2
1月27日発売の『戦術リストランテⅦ 「デジタル化」したサッカーの未来』は、ポジショナルプレーが象徴する「サッカーのデジタル化」をテーマにした、西部謙司による『footballista』の人気連載書籍化シリーズ第七弾だ。その発売を記念して、書籍に収録できなかった戦術コラムを特別掲載。「サッカー戦術を物語にする」西部ワールドの一端をぜひ味わってほしい。
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ミランが始めたとされる「ゾーナル・プレッシング」、ラルフ・ラングニックはその影響を強く受けている。1980年代の終わりから始まったミランの影響を受けなかったチームはたぶんないと思うが、ミランの戦術が一般化して当初の尖鋭性も薄まり、「普通」になっていく過程で、ラングニックは一人ブラッシュアップを続けて「普通でない」形で現代に蘇らせた。
「攻撃は狭く、守備も狭く」という異端
考え方の根本は強度を高めること。そのために不可欠の手段が「コンパクト」だ。アリーゴ・サッキ監督に率いられたミランは緻密なラインコントロールでFWからDFまでの距離を30メートル程度に設定、プレーエリアを狭くした。狭くすることで相手ボールへ寄せる時間、次のパスを予測してマークする時間を短くして、強度を上げることに成功している。
ラングニック監督が率いていたRBライプツィヒは横方向にもコンパクトだった。ボールのある方のフィールド半分にほぼ全員を集結させている。ミランも横方向へのスライドはあったが、それをさらに極端に行っていた。
21-22シーズンはドルトムントが高強度のスタイルを踏襲していた。当時のマルコ・ローゼ監督(現RBライプツィヒ監督)はオーストリアのRBザルツブルクを率いたことがあり、ラングニック直系の後継者だ。ドルトムントが設定している「場」はペナルティエリアの幅。約40メートルの幅の中にSBを除くフィールドプレーヤー8人が入る。ボールの位置よりも中央3レーンに場を設定しているのは、そこにゴールがあるからだろう。
相手はゴールへ向かって戻る。4バックなら4人がペナルティエリアの幅に絞っていく。ドルトムントはそこでボールを失っても素早くプレスできる。相手はこのエリアでリスクを冒したパスワークは使いにくく、自陣ゴールに後退しながら奪っても反撃能力は弱い。
相手DFを後退させる、動かすことは、もちろん攻撃にも有利に働く。戻る方向は決まっているので、そこから少しずらすだけでもFWは自分の前方が開いた状態でパスを受けられる。とにかく相手を止まらせない、構えさせないうちに攻め切ろうとする意図はよく表れている。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。