セリエA第21節の今季ミラノダービー第2ラウンドは、34分にラウタロ・マルティネスが先制点を挙げ、宿敵を枠内シュート「0」で封殺したシモーネ・インザーギ監督のチームに軍配が上がった。これでリーグ戦3連敗、公式戦ここ7試合2分5敗(6得点18失点)と泥沼のミランに対し、スコア以上の完勝。財政問題を抱え、シュクリニアル退団騒動に揺れるインテルがこの一戦で得た収穫と今後に向けた課題を、インテリスタの白面(@Hakumen9b)さんが考察する。
シュクリニアルが巻き起こした激しい混乱
過去に見てきた試合と比べても、奇妙な後味のダービーとなった今回の試合。歓喜も安堵もあるのだが、どこか満たされなさや困惑を覚える、そんな内容の一戦だった。
まずは簡単に、試合前の状況を整理してみよう。順位こそ2位に上がったとはいえ、ネガティブ要素はいくつもあるというのが、現在のインテルを取り巻く状況である。
最も影響が大きかったのは、失意に終わった冬のマーケットだろう。最重要選手の1人、守備の要であるミラン・シュクリニアルのパリ・サンジェルマン移籍決定は、クラブの内外に激しい混乱を巻き起こした。1月23日のエンポリ戦(0-1)では前半で退場となり、敗戦の直接的な原因となった上、タイミング悪く代理人が試合中にクラブへの不満をぶちまけるという、前代未聞の行動に出てしまう。当然、世界中のインテリスタは激怒。この敗戦を受けて首位ナポリを追撃する夢は実質的に潰え、クラブ全体をネガティブな緊張が支配することとなった。
シュクリニアルの契約延長交渉がいたずらに長引いたことなど、様々なタスクが重なった影響もあり、冬の加入選手はまさかの0人に終わった。繰り返しになるが、補強は0人である。
インテルが近年、オーナーの蘇寧グループが巨額の負債を抱えた影響(今年6月までに推定6000万ユーロの純利益が必要、複数の主力選手売却が避けられない状況)で、使える資金に限りがあることは周知の通りである。しかし、曲がりなりにもスクデット奪回を掲げるクラブである以上、失望の大きさは計り知れないものがあった。数少ない収穫と言えば、安定感抜群のプレーで着実にファンの心をつかんだ、マッテオ・ダルミアンの契約延長報道ぐらいなものだろう。
ピッチ内でも、歯がゆい状況が続いている。ナポリとの直接対決を制したものの(1-0/1月4日)、モンツァ戦(2-2/1月7日)とエンポリ戦では白星を挙げられず、不安定なパフォーマンスにファンは不満を募らせた。複数の選手を負傷で欠く中、しぶとく勝ち点を拾っているとも言えるのだが、完成度の低さに関する批判は避けられない。順位上は2位に浮上したが、ライバルたちの相次ぐ失速によって“押し上げられた”感が強いものとなっている。
決して状態が良いとは言えないインテルと、誰の目にも絶不調とわかるミラン。リーグ戦では通算178回目となるミラノダービーは、ミランが3-2で制した昨年9月の前回とはまったく様相が異なる、互いに背水の陣での開催となった。
ミランの“奇策”3バックにも動じなかったインテル
まずは結論から言おう。今回のダービーは「収穫もあったが、若干の物足りなさを感じさせるインテル」が、それでも「出口が見えない、本格的な混沌に陥ったミラン」を下した試合と言える。言うならばインテルが勝ったという以上に、底なし沼にいるミランが、そのまま沈んでいってしまう……そんな一戦だった。
試合内容を振り返っていこう。ミランの指揮官ステファノ・ピオーリはこの試合に向け、3バックの導入に踏み切った。しかも攻撃の要であるはずのラファエル・レオンをベンチに置くという、傍目にわかるほど守備偏重な布陣である。通常、これだけの大一番を前に、このレベルのシステム変更は極めてリスキーだ。しかし直近数試合の大量失点と、野戦病院とも称される負傷離脱の連鎖を鑑みて、苦渋の決断を下した形である。
ひるがえってインテルは、慣れ親しんだ[3-5-2]のシステムに、お馴染みの顔ぶれを余すところなく配置。指揮官シモーネ・インザーギは、外部の雑音に惑わされることなく、渦中のシュクリニアルに定位置を任せる。加えて、注目の2トップにエディン・ジェコとラウタロ・マルティネスを起用し、最も計算できる布陣で挑むことを選択した。前回のダービーとはまた異なる形で、好対照の両雄がぶつかり合うことになったわけである。
試合開始から10分もしないうちに、答え合わせは済んだ。……
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白面
集団心理とか、意思決定のノウハウ研究とかしています。昔はコミケで「長友志」とか出してました。インテルの長所も短所も愛でて13年、今のノルマは家探しです。