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ソシエダで躍動する久保建英。その能力を存分に発揮させる、チームの機能性に迫る

2023.01.29

個人としては悔しい大会となったカタールW杯後、所属するソシエダで目覚ましい活躍ぶりを披露している久保建英。リーガ3位と躍進するチームにおける彼の役割、機能性を紐解くことで、好調の要因を探る。

 1月25日のコパ・デルレイ、準々決勝対バルセロナ、ソシエダは敗れて公式戦での連勝は9でストップした。ただ、内容ではブライス・メンデスの退場で1人少なくなるもチームは最後まで抵抗。久保建英は29分に強烈なシュートを枠に当て、59分にゴール前2、3m前にいたアレクサンデル・セルロートへ「押し込むだけ」というアシストを出すなど絶好調を印象づけた。手前にDFが2、3人いてコースがなかった(ように見えた)ところを通した絶妙のパスは、あまりに見事で味方FWまで意表を突かれてしまった、というシーンだった。

バルセロナ戦のハイライト動画

 公式戦22試合で3ゴール5アシスト、9連勝中は1ゴール1アシストという数字だけ見ると、もの足りないように映る。だが、実際にはノーゴール、ノーアシストに終わってもこのバルセロナ戦のようにチームMVP級の活躍もしているし、例えばアシストはつかなかったもののアルメリア戦のダビド・シルバのゴールでも、オサスナ戦のブライス・メンデスのゴールでもボールを渡したのは久保だった。

 圧巻だったのはバスクダービー。股抜きからGKウナイ・シモンをフェイントで動けなくしてニアぎりぎりのシュートを叩き込んで先制点を挙げると、駄目押しのPK&退場を誘うドリブル突破で、ヒーローとなった。シャツを脱ぎイエローをもらってミケル・メリーノに怒られていたが、上半身裸でファン揉みくちゃにされエンブレムにキスをしたことで、ファンにとっても忘れられない選手になった。

大車輪の活躍を見せたアスレティック・ビルバオとのバスクダービーのハイライト動画

 ロベルト・ナバーロ、ジョン・パチェコ、パブロ・マリンらカンテラ出身の若手は次々と成長しているし、会長が再選され、スポーツディレクターのロベルト・オラベもイマノル・アルグアシル監督も契約更新され、プロジェクトの継続性は保証された。コパ・デルレイでは大健闘の末敗退したものの準々決勝に進出し、ELではオールドトラッフォードでマンチェスター・ユナイテッドを破ってグループステージを1位突破、リーガでは第18節終了時点で4位に7ポイント差の3位と、急成長のチームと一緒に久保に成長してもらいたい者としては、あのキスはソシエダとの契りの証と解釈したい。

 レアル・マドリーからの買い戻しや海外からのオファーの噂に耳を貸さず、なるべく長くこのクラブにいてもらいたい。「鶏口となるも牛後となるなかれ」。ビッグクラブで控えになるよりも、ソシエダをビッグクラブにする方がキャリアとしては充実しているし喜びも大きい、と勝手に考えている。

ボールロストを恐れなくていい“久保シフト”

 さて、ここからは久保のポジションとプレー内容について分析したい。

 アルグアシル監督が今季選んだシステムは、中盤がダイヤモンド型の[4-4-2]。就任直後はダブルボランチの[4-2-3-1]で、セントラルMFマルティン・スビメンディの成長に合わせて3トップの[4-3-3]に変化したが、昨季後半から極端な得点不足に苦しんだことで2トップでロングボールを増やした[4-4-2]に変えていた。ただ、セルロートとアレクサンデル・イサク(現ニューカッスル)の2トップは機能したとは言えず、リーガ38試合で40得点に終わっていた(今季はここまで18試合で28得点)。

 今夏イサクが引き抜かれ、代わりに獲ったウマル・サディクが大ケガ、セルロートを慌てて再レンタルするもCFの頭数が足りなくなったので1トップの[4-3-3]や[4-2-3-1]に戻すかと思われたが、昨季の形を維持。それによって生まれたのが、久保の[4-4-2]の左セカンドトップという起用法だった。

 てっきり、[4-3-3]の1列目右か[4-2-3-1]の2列目右で使われるものと思っていたので驚いた。セルロートの周りを衛星的に動いて落としたボールを拾うには距離が開き過ぎている。ロングボールを久保に当てても、裏へ走らせても勝ち目がないのは明らか。この形で果たして久保にボールが入るのだろうか?というのが第一印象だった。

[4-4-2]ダイヤモンド型の基本布陣

 このポジションでまず光ったのは、久保のボールロストが問題にならないということだった。

 1列目でプレーゾーンが味方ゴールから物理的に遠いことに加えて、背後にはチーム一のバランサーで、MFでは最も体格が良いメリーノがいる。久保がロストした時にまず行くのはシルバ、連動してメリーノも行く。そこに久保自身も下がって来る。この3つのプレスでたいがいのボールはインターセプトしてしまうし、最悪の場合でも敵陣でのファウルで止まる。久保がここのポジションでボールロストしてカウンターを食らい失点したり、しかけたりするのを見た記憶がない。

 久保は足下にボールをもらってなんぼの選手だ。スペースへのボールを追いかけたりする選手ではない。

 足下でトラップ、正対して1対1を仕掛けたり、その構えを見せてDFが足下に入れないように釘づけにしておいて、周りの動きを待ってパスを出す。あるいはパスを出すふりをして抜け出す。敵が足下のボールに飛び込めないのは、フェイントをかけ両足でボールを少し動かすだけでかわせる技術があるから。よって、相手が久保を止めようと思ったらトラップの瞬間を狙うしかない。ボールを受けようとする足下に飛び込むのだ。

 ボールがこぼれ、久保が倒れる。これがファウルになれば相手にたいがいイエローが出され、ファウルにならなければ危険なカウンターを食らう。久保は審判にアピールしているから守備の初動が遅れ、ボルダラス監督やアギーレ監督はかんかん――なんてシーンをこれまではよく見た。マジョルカやヘタフェでは攻撃のプラスよりも守備のマイナスの方が大きく、次第に使われなくなっていった。

 「ボールロストをするな」とこれまでは言われていたはずだ。が、ソシエダでは「ボールロストを恐れず、仕掛けて行け」と言われているのではないか。

 ロストをしても大丈夫なように守備の態勢を整え、攻撃のプラスだけが出るようにしたのは、アルグアシル監督の功績である。同時に、敵陣深くであるから、相手もファウル覚悟で飛び込むことを躊躇する。よってボールロスト自体も減る。

 もう1つ、このポジションだとサイドやセンターを長距離背走する必要がない。それはメリーノやシルバがやってくれる。

 シルバの守備の貢献は非常に大きい。久保と変わらぬ体格で、あの年齢(37歳)なのに久保よりも守りの負担ははるかに大きい。プレスの回数も多く、背走の距離も長い(その代わりにドリブルはせず、1タッチ、2タッチの天才的な戦術眼とパスで体力を温存)。

 この言わば“久保シフト”を用意したことだけ見ても、いかにソシエダが久保に対して本気だったかがよくわかる。

最高の相棒シルバと下支えするメリーノの存在

……

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久保建英

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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