ビッグマッチほど主審の判定にも注目が集まる。それは1月14日に2-1でマンチェスター・ユナイテッドがマンチェスター・シティを下した一戦も例外ではなく、ユナイテッドの同点弾を認めるオンサイドの判定が物議を醸していた。その論点を審判員や競技規則に明るい攻劇氏に解説してもらった。
マンチェスター・ユナイテッドのホームで行われたマンチェスター・シティとのダービーマッチは、ホームチームが逆転勝利を収めてマンチェスターを赤く染め上げた。優勝争いに踏みとどまったマンチェスターUとは対照的に、2位のマンチェスターCにとっては首位のアーセナルから勝ち点差を離される痛い敗戦となった。
60分に先制点を許したマンチェスターUだが、78分にブルーノ・フェルナンデスの得点で追いつき、4分後にゴール前でフリーのマーカス・ラッシュフォードが値千金の逆転ゴールを決めた。鮮やかな逆転劇に“夢の劇場”ことオールドトラッフォードが揺れたが、その口火を切る同点ゴールがオフサイドなのではないかと大きな論争を呼んでいる。
得点の流れはこうだ。カセミロがスルーパスを供給すると、ボールはラッシュフォードのもとへ。彼はボールを追走したが、オフサイドポジションに位置していた自覚があってか触れることはしなかった。すると後方から走り込んできた「オンサイド」のB.フェルナンデスがダイレクトシュートを放ち、ゴールネットを揺らした。得点後に副審はフラッグを上げてオフサイドの合図をし、これにB.フェルナンデスが猛抗議。主審と副審が協議した結果、オフサイドではなくゴールと結論づけられ、VARが介入することもなく得点が認められた。事象発生直後はVARの助言で得点が認められたとする意見も散見されたが、実際は主審のゴール判定をVARがフォローしたというものである。
映像から分かる事実は3つ。「ラッシュフォードはオフサイドポジションにいた」、「ラッシュフォードはボールに触れなかった」、「B.フェルナンデスはオフサイドポジションではない」ことだ。判定を検証する上で、まずはオフサイドのルールを確認しよう。
主審がオフサイド判定を下すのに必要な要素とは?
ボールに触れずともオフサイドが成立するのは、相手選手を妨害したと判断される場合である。「視線を遮ってプレーに影響を与える」、「ボールに向かうことで相手選手に挑む」、「自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みて影響を与える」、「相手選手のプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動をとる」の4点のうちいずれかに該当しなければいけない。
次に今回の事象とルールを照らし合わせていく。視線を遮ったかはシュートされた瞬間にGKとシュートを打った選手の直線上にいた場合などのため、今回は関係ない。また相手選手へ挑むことも、クリアしようとする選手にプレッシャーをかける場合などを意味しており、スルーパスをカットすることが確実でボールの保有権があるとされるマンチェスターCの選手はいないため該当しない。残る2点は該当する可能性があるが、主審は影響を与えていないと判断した。……
Profile
攻劇
現役大学生のサッカー審判員資格保持者。自身の審判活動時はコミュニケーションを大事にするよう心がけている。国内外で話題になった判定や関連情報を収集しながら、Twitterを中心にルール解説やレフェリー情報を発信。競技規則の理解がサッカーファン内で進むことは、レフェリーとファン・サポーターの両方に良い効果があると考えている。贔屓クラブはJリーグのFC東京で、年間チケット保持者。