サウジアラビア・リヤドが舞台のスーペルコパ・デ・エスパーニャ(スペイン・スーパーカップ)2023決勝で実現した今季2度目のエル・クラシコ。前半にガビ(33分)とレバンドフスキ(45分)、後半にペドリ(69分)がゴールを挙げ、レアル・マドリーの反撃をベンゼマ(93分)の1点に抑えたバルセロナが、4年ぶり14度目の優勝、そして2021年11月に発足したシャビ体制で初のタイトル獲得を成し遂げた。
クラシコとは、どんな状態や環境であれ絶対に負けられない戦いである。そして今シーズン最初のタイトルを懸けた決戦は、どちらにとっても絶対に勝たないといけないクラシコでもあった。
リーガ第9節(昨年10月16日)にサンティアゴ・ベルナベウで行われたクラシコでは、自分たちのフットボールを自分たちの文脈で展開するという青臭い戦いが、巧者レアル・マドリーの前ではネギを背負ったカモのように軽くいなされ、バルセロナはチームの完成度の差をまざまざと見せつけられての惨敗(3-1)であった。
しかし今回はその反省を生かし、自分たちのフットボールをする前に、まず相手を見てプレーすることに切り替えた。それが[4-2-3-1]の配置変更であり、敵陣でのアグレッシブなマンマーク対応という現象としてキックオフから鮮明に表れたのだった。
動的構造を生み出す個人戦術の破壊
バルサの守備対応は、相手2CBのパスラインをレバンドフスキが切り、他の選手はマークの基準点をハッキリさせる。特に試合を形成する中盤のクロースにはペドリ、モドリッチにはフレンキー・デ・ヨンク、カマビンガにはブスケッツとガッチリはめ込んできた。
この狙いは、マドリーの超一流のプレス回避の源である中盤3人の選択肢を素早く排除することでミクロな個人戦術を抑制し、相互作用で創発される自己組織化された動的構造そのものを派生させないことにあった。
マドリーのビルドアップでの常套手段でもあるインテリオールが斜めに降りる動き。オープンな状態でボールを受け、味方に時間とスペースを還元するダイナミクスの根幹とも言える動きもマンマークで抹殺。徹底して素早い選択肢の排除と素早い寄せでスペースをも制限していく。
前回対戦で狙われたブスケッツ周辺のスペースも、1列降りたフレンキーがモドリッチを睨みながらブスケッツの背後までケアし、2CBもアグレッシブに迎撃することで制限。それでもボールに絡みに降りてくるベンゼマにはCBのクンデがどこまでもついて行き、高速カウンターの主人公となるビニシウスは右SBのアラウホが特別番人として睨み続けることで、ビルドアップの出口も巧みに封鎖していった。
その結果、マドリーに主体的な選択肢はなくなり、受動的な選択肢で苦し紛れの縦パスが出先で奪われるか、逃げのバックパスでビルドアップのやり直しをせざるを得ない状況に。動的構造を派生させることなく、ボール保持での振る舞いをバルサは“操作”することができた。
このシャビの仕掛けた戦略によってマドリーの思惑とリズムを崩すことに成功し、バルサが本来やりたい敵陣でのボール支配に持ち込むことに成功する。
用意されていた崩しのデザイン
自分たちの相互作用を保ちながら相手の相互作用を破壊することに成功し、ボールを握りながら相手を自陣深くに押し込む得意の戦型に落とし込めたバルサだが、それだけではマドリーは慌てはしない。「ゴールを奪われなきゃオッケー!」と、耐えることに振り切れる懐の深さがあり、一瞬の隙でも見つければカウンターで刺せる高度な戦術眼もある。
マドリーが右ウイングのバルベルデも下がるローブックで待ち構える展開に切り替え、バルサにとっては守備ブロックをどう崩す?という明確な構図の中、ここでもシャビは崩しのデザインをキッチリ用意していた。それを端的に言うと“守備ブロック内のライン間を支配し、DFラインの背後を取る”である。
ボール保持では[3-2-5]に近い配置から、ここでも相手の状況を見ながらプレーをしていた。その特徴的な動きが3つあった。
①守備ブロックの内から外へと降りる“サポートの動き”
②守備ブロックの外から内に潜り込む“侵入の動き”
③守備ブロック内でレーンを移動する動き
この3つの動きを連動・連結させることで相手を動かし、守備ブロック内でのライン間に入り込み、相手を後手にすることを目指していた。特にキーとなっていたのが①と②である。……
Profile
ぶんた
戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」