1月15日のプレミアリーグ第20節、トッテナム・ホットスパー・スタジアムで行われたノースロンドンダービーは、14分と36分の2ゴールでアウェイチームが勝利。昨年10月のホーム戦(3-1)に続いて、宿敵相手に13-14以来となるシーズンダブルを達成した。勝ち点33(10勝3分6敗)の5位トッテナムに対し、首位アーセナルは同47(15勝2分1敗)に伸ばし、2位マンチェスター・シティとの差を8ポイントに広げている。
「悔いはないよ」
前半がアーセナル優勢、後半はスパーズ優勢のゲームだった。
どちらも自陣からGKも使った丁寧なビルドアップを行い、敵陣に押し込めば左右に散らしながら粘り強く隙を探る。埒(らち)が明かなければいったんボールを下げて相手を引き出してから攻め込む。敵陣でのプレスを基調としながら、押し込まれた時はペナルティエリアの外に守備ブロックを敷いてスペースを埋める。そしてそこからのカウンターを虎視眈々と狙う。試合の流れに応じてやるべきことをやる。どの局面にも弱点のない、偏りのない全方位型の戦いを志向しているのはどちらも同じだった。
前半はアーセナルが攻め込んでスパースがカウンター狙い。後半はそれが逆になっただけで、前半と後半を足してみれば両チームともほぼ同じようなことをしていたと言える。ただし結果は0-2、アウェイのアーセナルが勝利してノースロンドンダービー完全勝利となった。
両者の間に大きな「差」はなかった。しかし「違い」はあった。
「集中して常に頭を動かすこと。そして悔いのないように戦い抜くことを求めた。実際、悔いはないよ」
アントニオ・コンテ監督はハーフタイムの指示について聞かれ、このように語っている。2点のビハインドを追う後半、形勢を逆転させて得点のチャンスもあった。アーセナルのGKラムズデイルのファインプレーがなければスパーズは同点に追いつけたかもしれないし、少なくとも1点は取れていたはずだ。
「正しく、力強く、試合を始めることができたしパフォーマンスは良かったと思う」(コンテ監督)
コンテの意見はそうなのだろう。だが、言葉尻をとらえるようで申し訳ないが、スパーズが「正しい」という印象はない。「力強く」はあったと思うが。間違っていたと言うつもりはないのだが、どちらがより勝利にふさわしかったか、どちらがより良いチームだったのか、あるいはより面白かったのか。そういう観点からすると、アーセナルの勝利は正しい気がするのだ。もちろんこれは個人の感想に過ぎないのだけれども、おそらく多くの人はそう思っていたのではないか。実際、試合後のコンテ監督の「悔いはないよ」というコメントからもそのニュアンスは滲み出ている。
両者に「差」はそれほど感じられなかった。スタッツを見てもそうなのだ。ポゼッションは50%、シュート数(17対14)と枠内シュート数(7対5)はスパーズがわずかだが上回っている。けれども、どこか格の「違い」のようなものは感じられた。
ウーデゴーの順回転ミドル
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。