本誌『フットボリスタ94号』の特集「新型3バック隆盛の5つの理由」に絡めて、「3バック変更でリーグ8連勝、ユベントスの復活は本物なのか?」というテーマの原稿を、ナポリ戦を題材に片野道郎さんに依頼した。しかし、首位攻防戦で突き付けられたのは残酷な現実だった。3バックで復活したはずのユーベが、なぜナポリに一方的な惨敗を喫したのか、その理由を考えてみたい。
先週末、敵地スタディオ・マラドーナでナポリに5-1という屈辱的な大敗を喫したユベントス。
アレグリ体制2年目の今シーズンは、開幕から9試合を終えた時点で首位ナポリから勝ち点10差の9位(3勝4分2敗)に低迷していたが、システムを4バックから3バックに切り替えた第10節トリノ戦以来、W杯による中断を挟んで前節までの8試合に8連勝、しかも8戦連続無失点のクリーンシートを記録して、ミランと並ぶ2位まで順位を上げてきていた。
ここで勝利を奪えば首位との勝ち点差は4まで縮まり、ナポリの独走に歯止めをかけてスクデットへの希望が一気に開ける――という皮算用で臨んだ直接対決だったが、蓋を開けてみればクオリティとインテンシティの双方で明らかに上回るナポリに一方的に押し込まれての完敗だった。
ユベントスがセリエAで5失点以上を喫したのは92-93シーズン最終戦(対ペスカーラ/1993年5月)以来ほぼ30年ぶり。こうなると、それまでの8試合は一体何だったのか、ということにもなってくる。3バック、8連続クリーンシート、5失点の惨敗という3つの要素をどう結びつけ、評価すればいいのか。以下、いくつかの角度から検証して行くことにしよう。
紆余曲折の末の3バック変更でリーグ8連勝
そもそも今シーズンのユベントスは、昨冬8000万ユーロの大枚を投じてフィオレンティーナから引き抜いたブラホビッチ(とW杯明けに復帰が見込まれていたキエーザ)を攻撃の中核に据える構想を出発点に、ディ・マリア、ポグバというビッグネーム2人を移籍金ゼロで獲得、さらに左サイドにクロス専業のコスティッチ、中盤にレジスタのパレデスを加えるなど、[4-3-3/4-4-2]という4バックの配置を前提とする戦術プロジェクトに基づいて陣容が整えられたチームである。
ところが、ポグバ、ディ・マリアの故障離脱、パレデスの戦術的ミスマッチなど誤算が相次いでチームがなかなか固まらず、アレグリは当初の[4-3-3]から[4-4-2]へ、そして10月8日のセリエA第9節ミラン戦、11日のCL第4節マッカビ・ハイファ戦というアウェーの2試合をいずれも2-0で落とすに至って、システムを4バックから3(5)バックに変更することになる。
この時点でも、セリエAだけに話を限れば9試合で7失点と、少なくとも数字の上では守備に大きな問題を抱えていたわけではない。むしろ12得点に留まっていた攻撃の方が改善の余地は大きいように見えた。しかしここでアレグリが選んだのは、攻撃ではなく守備を強化することによってトータルの収支を改善する道だった。
目先の結果をどうにかするには、まず守備を安定させるところから、というのは、不振に陥ったチームを立て直す際の常道である。アレグリのように、得点するよりも失点しないことをまず重視し、主導権やボール支配には拘泥せず、個のクオリティで数少ないチャンスをモノにして効率的に勝利を手に入れることをよしとするサッカー哲学の持ち主にとってはなおさらだろう。
果たして、システムを3バックに切り替えてからのユベントスは、セリエAでは無失点で8連勝、そのうち5試合は1-0という、いかにもアレグリのチームらしい戦いぶりで復調をアピールすることになる。
数字から見えてくる「カルチョへの回帰」
しかし、そのパフォーマンスが表面的な数字に見合ったものだったかと言えば、必ずしもそうとは言えなかったことも確かだ。象徴的なのは、セリエAでは3バック以降以来無失点(開幕から前節までの17試合で7失点)という数字を誇っていた一方、CLでは3バックで戦った最後の2試合でベンフィカとパリSGに計6失点、GSトータルでも6試合で13失点(1勝5敗でグループ3位敗退)を喫していたという事実。セリエAでの8連勝にしても、1-0で勝った相手はトリノ、レッチェ、ベローナ、クレモネーゼ、ウディネーゼと明らかな格下である。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。