9日、33歳の若さで選手キャリアに終止符を打ったロサンゼルスFCのガレス・ベイル。トッテナム時代は2010-11CLグループステージで前回王者インテル相手に衝撃のハットトリック、レアル・マドリーでは13-14コパ・デルレイ決勝の爆走ゴールに、17-18CLファイナルでのオーバーヘッド弾など数々の印象深い得点とともに欧州クラブサッカーシーンを駆け抜けた韋駄天は、111試合40得点の両歴代最多記録を塗り替えたウェールズ代表選手としてはどんな存在だったのか。現地でアナリストとして活動する白水優樹氏に綴ってもらった。
W杯プレーオフ2試合で開演したベイル劇場
ウェールズ人にとって、ガレス・ベイルはカタールW杯を制したアルゼンチンのリオネル・メッシのような存在と言っても過言ではない。
2016年のウェールズ史上初のEURO本大会進出かつベスト4進出という快挙に続き、2020年の同大会では2大会連続の本戦出場、さらには2022年に64年ぶり2度目となるW杯の舞台へと母国を導いた。単に歴史的な瞬間で“ア・ドライグ・ゴッホ”(ウェールズ国旗に描かれている赤い竜)を背負っていただけでなく、主将を任されたベイル自身もその背中でチームをけん引し続けたのだ。
EURO2016予選では、アンドラとの初戦で逆転勝利を呼び込んだ2ゴールをはじめ、ベルギー戦での決勝点など合わせてチームトップの7ゴールを記録。カタールW杯欧州予選では、ベラルーシ戦でのハットトリックによる3-2での勝利がウェールズのプレーオフにおけるシード権獲得に繋がった。
そして、プレーオフでは“ガレス・ベイル劇場”が開演する。
シード権によって準決勝、決勝をホームのカーディフ・シティスタジアムで戦えることになったウェールズ代表は、「赤い壁」の愛称で知られるサポーターの大声援に押され、ベイル以外の10人が懸命な守備で攻撃を彼の魔法の左足に託した。
「Viva Gareth Bale」の大合唱の中、その歌詞の主人公である初戦のオーストリア戦では直接フリーキックとコーナーキックから2得点を奪い、決勝のウクライナ戦でも、相手の避け難いミスも絡んだとはいえ、代名詞である鋭いフリーキックから決勝点を演出した。
とりわけこの2試合に、ウェールズにとっての「ガレス・ベイル」がどのような存在であったかが詰まっていると言えるだろう。苦境でチームを救うゴールを決めてW杯制覇をもたらしたメッシのように、ベイルもまさに自らの活躍で母国を国際舞台で輝かせた英雄なのである。……