迎えた決勝は先制PK献上、41分途中交代という不本意な結末に終わった。それでも、6試合に先発(全7試合に出場)し、献身的なプレーでチームに貢献してきた25歳のウインガーは、間違いなく今大会のレ・ブルー(フランス代表)に欠かせない存在だった。その2度目のW杯挑戦の軌跡を、バルセロナファンとして、デンベレ中心にフランスの戦いを追っていたという猫煮小判(@scnekoni_koban)さんが振り返る。
ウスマン・デンベレ。その名は忘れられた存在であった。
バルセロナでのたび重なる負傷に、お家芸の遅刻癖という週刊誌からしたら絶好の獲物とも思えるゴシップスターぶり。そしてディディエ・デシャンのレ・ブルー進化論における「3-5-2 feat.カリム・ベンゼマ」という秘密兵器投入による、事実上のポジション喪失。
しかし、彼は決してただのゴシップスターでは終わらなかった。バルサのシャビ帰還で始まった「デンベレ補完計画」による見事な復活劇。さらにケガ人続出で何人ものカタールW杯欠場者が出たことによるチャンスをものにした悪運の強さ。今回はそんな「デンベレの、デンベレによる、デンベレのためのストーリー」をお楽しみいただきたい。
第壱話 シャビ、襲来
2021年。彼は完全に“終わった”とされた。ケガに泣かされ続け、ロナルド・クーマンからは完全な構想外扱い。話題はむしろピッチ外ばかり。シーズン後には契約が切れることもあり、在籍した5年間で移籍金1億4000万ユーロの価値をカンプノウで披露できずブーイングの標的にされ、何ももたらすことなく去ることが濃厚とされていた。
そんな中、クーマンが解任されシャビが就任する(2021年11月)。これにより「デンベレ補完計画」が本格始動。カットインしてのフィニッシュを求められていたそれまでとは異なり、大外でその才能を解き放つ。広がるスペース、シンプルになった役割で次第に本来のパフォーマンスを取り戻していった。初速は速くはないものの、驚異的な加速力で相手を抜き去り、左右両足から正確無比なピンポイントクロスを送れば、守備では問答無用に全力で戻り最終ラインまでカバー。そして締めは特に絶好機というわけではないところでシュートし相手にぶつけ、CKを獲得するプレー。これぞ脳筋感満載で最高のデンベレクオリティ。満了で退団と思われた今夏に契約延長し、見事にカンプノウを熱狂させた。
第弐話 見知らぬ、レ・ブルー
完全復活を遂げたデンベレを、デシャンが放っておくわけがない。バルセロナでの不遇によりおよそ1年は招集外であった間、W杯連覇を目指すチームは進化のためにベンゼマとキリアン・ムバッペの融合をテストする意味で[3-5-2]を導入。またCB陣もラファエル・バランだけではなく、ダヨ・ウパメカノやイブラヒマ・コナテにウィリアン・サリバ、そしてジュール・クンデと層が厚くなったことを含め、4年前のチームとは大きな変化が起きていた。
このシステムではウイングが存在せず、デンベレの得意とするポジションがなくなっていた。しかしここは悪運強きデンベレ。ポール・ポグバやエンゴロ・カンテに次ぎ、最終兵器のはずだったベンゼマも大会直前で欠場が決定する。これは万事休すか、と思われたがデシャンはかつての[4-2-3-1]に戻し、オリビエ・ジルーを最前線の柱として起用。ターゲットができたことでウイングにデンベレが活躍できる場が生まれる。まもなく開幕するW杯。決戦の時を待つ。
第参話 決戦、オーストラリア戦
過去3大会連続で前回チャンピオンチームはグループステージ敗退という思わしくないジンクスがあった。そしていずれも初戦で勝ち点3を得ていない事実も(2010年大会イタリアはパラグアイ相手に1-1、2014年大会スペインはオランダ相手に1-5、2018年大会ドイツはメキシコ相手に0-1)。
レ・ブルーにとって、この悪しきジンクスを打ち破るためには初陣での勝ち点3は必須なのである。その相手はオーストラリア。戦前予想では、さすがにフランスの圧倒的優位だった。
しかし、オープニングはまさかの形でスタートする。開始9分でいきなりオーストラリアに先制ゴールを許す。「フランスもか……」と思いきや、前半のうちにあっさり逆転。後半に入るとデンベレのクロスにムバッペが合わせて3点目。終わってみれば4-1の圧勝で難なく白星発進。デンベレも後半77分までプレーできた。
第四話 静止した会見の中で
初戦を勝利で終え、会見に臨むレ・ブルーとデンベレ。そこに驚きのニュースが飛び込む。……
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猫煮小判
静岡県静岡市…いや、静岡県清水市に生まれ育った自称次郎長イズムの正統後継者。好きな食べ物はもつカレー、好きな漫画はちびまる子ちゃん、尊敬している人は春風亭昇太師匠。そして、1番好きなサッカーチームは清水エスパルス!という、富士山は静岡の物でもの山梨の物でもない日本の物協会会長の猫煮小判です。君が清水エスパルスを見ている時、清水エスパルスも君を見ているのだ。