こんな結末を誰が予想しただろうか。一敗地に塗れた2018年大会の雪辱を果たすべく、ベテラン、中堅、若手それぞれに擁するタレントをCL優勝監督ハンジ・フリックが束ねカタールの地に乗り込んだドイツ代表だったが、結果は2大会連続のグループステージ敗退。ドイツ在住の中野吉之伴氏が、ドイツ国内の声も交えながら敗退の要因を指摘する。
ドイツ代表が3度散った。
18年ロシアW杯グループステージ敗退、EURO2020ラウンド16敗退、そして今回の22年カタールW杯グループステージ敗退。
さすがに雰囲気は暗い。テレビ中継された国営放送『ARD』のスタジオでは、元ドイツ代表MFサミ・ケディラ、トーマス・ヒツルスペルガー、元女子代表GKアルムート・シュルトが険しい顔で敗因を口々にしていた。ドイツの敗退を受け入れられない……そんな空気感がそこにはある。だが、これが現実だ。
噴出していたフュルクルク待望論
スペインに1-1で引き分けた後、ドイツにはこれで少なくとも決勝トーナメント進出はできそうだ、という雰囲気があった。スペイン戦のパフォーマンスは間違いなくかなりのレベルにあったし、日本がコスタリカに負けたことで「スペインに勝利することはできないだろう、良くて引き分け」という見方がされても不思議ではない。
コスタリカに2点差以上で勝利すれば、日本が引き分けでも突破できるというのがドイツの思惑だった。数字上、8-0でコスタリカに勝利すれば自力でグループステージ突破を決めることができる。だが、さすがにそれを現実的な目標と考えることはできない。コスタリカは確かにスペイン相手に0-7で敗れてはいるが、本来守備の堅さには定評があるし、徹底的に守備固めをし続けられる心構えで試合に臨むことができるチームだ。
とはいえ、ゴールを重ねていくことで予選突破の可能性を高めることには変わりない。だからこそドイツメディアもファンも識者も、スペイン戦で貴重な同点ゴールを挙げたニクラス・フュルクルクのスタメン起用を熱望していた。
だが、フリックは別のアイディアで試合に臨んだ。ヨシュア・キミッヒを今大会初めて右SBで起用。ダブルボランチにはイルカイ・ギュンドアンとレオン・ゴレツカ。そして前線にはジャマル・ムシアラ、セルジュ・ニャブリ、レロイ・サネ、トーマス・ミュラーとバイエルン勢7選手がそろい踏みだ。
守備固めをする相手をこじ開けるサッカーは、確かにバイエルンが得意とするところ。ただ、そんなバイエルンにしてもロベルト・レバンドフスキ移籍後はなかなか得点が奪えずに苦労していた時期があったはず。細かいパス交換やポジションチェンジの連続でシュートチャンスを作り出すところまではいける。ただ、ペナルティエリア内は相手選手の多くが必死に身体を張って守ろうとするエリアだ。抜け出したと思っても相手のタックルやブロックでシュートに持ち込めないことも出てくる。
そんなバイエルンの攻撃が好転したのは、CFにカメルーン代表FWエリック・マキシム・チュポ・モティングがはまったからだった。ボールを収め、相手DFを引き付け、前線で潰れ役をしてくれるチュポ・モティングを中心にオフェンシブな選手がタイミング良くスペースに飛び出せるようになったことで、バイエルンはまたゴールを量産できるようになった。
そんなチュポ・モティングの役割を期待されたフュルクルクだっただけに、スタメンから外れたことにテレビスタジオの識者からも疑問の声が。……
Profile
中野 吉之伴
1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。