W杯で見てほしい!推しクラブのイチオシ選手#6_バルセロナ編
いよいよ開幕したカタールW杯。4年に一度の祭典をどのように満喫するかは人それぞれだが、普段特定のクラブを応援している人にとって、所属選手たちの活躍は楽しみの1つであろう。そこで、自らの推しクラブを持つ方々にW杯で注目してほしい“イチオシ選手”をピックアップしてもらい、その魅力を綴ってもらう。
第6弾はバルサファンのぶんた(@bunradio1)さんが、10年以上チームの土台を支えてきた34歳のピボーテ、スペイン代表の主将ブスケッツを取り上げる。
吾輩はボールである。名前はまだない。
ピッチ内の22人が吾輩を認知し、蹴り、運び、奪い合う。そしてゴールに入れられる運命の中で、フットボールのセンスがある奴はだいたい一発目のトラップでわかる。その感触と置きどころ。パサーからの意図をくみ取り、次のプレーへの素早い準備。センスのある選手はワントラップで「ビジョン」を感じるのだ。
どっかで見覚えのある小説オマージュでヌルっと書き出したが、名もなきボールは知っている。ブスケッツのトラップには最良の「ビジョン」があることを。
チョイと昔、メッシが「生まれ変わるなら誰になりたい?」という緩い質問に「ブスケッツ」と即答したのは有名な話。バロンドール級に価値ある御指名に内包されていたのは、きっとこのボールタッチから醸し出す「ビジョン」を感じ、共有していたからだろう。
ペップの最高傑作
ブスケッツを世に送り出したのが、稀代の名将ペップ・グアルディオラである。ペップ本人が複雑化させた現代フットボールの中で、組織の中でプレーの旋律が過不足なく結び合う、美しいアーティストを生み出し続けている。そんなペップが駆け出しの監督としてバルセロナB時代に見つけ出した最初のアーティストがブスケッツだ。現役時代と同ポジションであるピボーテとして、クライフからの教えと自分の知見をすべてブスケッツに注ぎ込んだ。己の思想をすべて投影させたアーティストという意味では、最初にして最高傑作である。
常にボールの未来を探り、ピッチを俯瞰で見ているブスケッツには、将棋の羽生善治九段が説く大局観がある。ピッチ上のどこに誰がいるのか。瞬時に変わる味方と相手のズレを予測し、ボールの最適な流れを読み解く。戦況を素早く認知し、用意された複数のプレーの中から最優先事項を選択し、実行する。闇雲に走ることはせず「正しい場所」に「正しいタイミング」でポジションを取る。
判断を間違えないシンプルなブスケッツのプレーは、チームがスペースを合理的に占有する羅針盤となり、味方の相互作用を連結させ、調和の取れたリズムを生み出す。ブスケッツのプレーは、バルサのフットボールそのものと言っても過言ではない。
しかしブスケッツは簡単に“見えちゃう”プレーのさりげなさと、ごぼうのようにヒョロくてスターの光を感じないこと、そしてピボーテという縁の下の力持ち的タスクということもあり、過小評価はされてはないが、評価がてっぺんを突き抜けることもなかったと思う。だがポジショナルプレーの標準化により配置の重要性が認知されたことで、ポジショニングでパスラインが引ける鬼才のビジョンの広さが理解されるようになった。
今ではバルサのビルドアップに対して対戦相手はブスケッツをマンマーク、もしくはカバーシャドーで抹殺することでボール循環の弁を詰まらせることが定跡となり、バルサもそう簡単にはボール前進ができなくなってきているのが現状だ。しかしピッチ上の戦況を解釈する引き出しが豊富なブスケッツは、ビルドアップで蚊帳の外にされている現象の問題解決の一つとして、“あえて移動しない”という立ち位置で、プレーには関与しないが、どこへボールを運ばせるか?の方向性を決めるボール循環には関与し、味方のチカラで1st守備ラインを越えた後に、有効な選択肢となるようにオープンな状態で待機するという判断を取ることが多くなった。
相互作用の連鎖で、一つの生き物のような動的構造をいかに取り入れていくかという現代フットボールの現在地において、運ぶドリブルで前進して配置のズレを自ら創出する同僚のフレンキー・デ・ヨンクとは違い、多角的なパスラインの波止場としてど真ん中に居座り、味方に配置のズレを創出させる。そこにはシャビ監督のバルサ伝統のピボーテへのこだわりがヒシヒシと感じられ、ブスケッツもそれに忠実である。
振り返れば奴がいる
……
Profile
ぶんた
戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」