13年ぶりのJ2はいばらの道だった。前半戦は常に自動昇格圏内を窺う位置に付けていたものの、夏を過ぎると信じられないような大失速。指揮官交代も奏功せず、ベガルタ仙台は7位でプレーオフ進出も逃す結果となった。再び昇格へとチャレンジする2023年。今シーズン以上の覚悟が求められる1年を前に、村林いづみは若き守護神に期待を懸ける。小畑裕馬。アカデミー出身の21歳は、果たしてベガルタの救世主たり得るのか。
「21時過ぎにはまぶたが落ちてくる」21歳の夜
ベガルタ仙台の若き守護神・小畑裕馬の夜は早い。毎日21時には就寝。起床は6時。トレーニングのある日は8時前にはクラブハウスに入るため、その生活は極めて規則正しい。だらだらと夜更かしをすることなどない。翌日のハードな練習に備え、朝までぐっすりと眠り、力を蓄える。「もう、おじさんみたいな生活ですよ。21時過ぎにはまぶたが落ちてくるんです。眠たくてしょうがない」と21歳の若者は苦笑いを浮かべる。
「あの時」も小畑はすでに夢の中にいた。「それがですね、リアルに21時には寝ていました……」。それは9月末、元仙台、日本代表GKシュミット・ダニエル選手が国際親善試合のエクアドル戦で華麗な「PKストップ」を見せた時のことだった。ワールドカップのメンバー選考へ向けての大事なアピールの場。そこでの大仕事に日本中が沸いていた。翌日の練習場で、小畑はばつが悪そうに取材に答えた。「いや、見たかったんですよ、俺だって(笑)。でも、ちょっと眠すぎました。試合が始まる前には寝ていましたね。ハイライトは見ましたよ」。
頼もしい先輩の雄姿、試合後の渾身のガッツポーズに、小畑の心は奮い立った。「ダン君(シュミットの愛称)がインタビューで言っていましたね。『自チームに戻って、チームを勝たせるGKになりたい』と。その言葉が身に沁みました」。J1昇格プレーオフに何とか望みをつなごうと、苦しいシーズン終盤戦を戦っていた小畑の胸に「チームを勝たせるGK」という言葉が響いた。
エクアドル戦の約4か月前、ベルギーリーグが開幕する前にシュミットは「謎の練習生」として仙台の練習に参加していた。小畑は、海外でも日本代表でもたくましく戦うシュミットの一挙手一投足を瞳に焼き付けた。
「2種登録の時からダンくんとプレーしている。(シュミットの強みの)足元の技術は僕も売りにしているところなので、一緒に練習する時は、ワンタッチの技術を意識して見ていました。少し浮いたボールが来てもしっかり足元に収めていた。どんな時でも丁寧にプレーしていたので、細かいことからしっかりやっていかなければいけないのだなと感じました」
背番号1はシュミットから引き継いだ。「この番号を背負う選手は、試合に出なければいけない」と小畑は常々、肝に銘じている。いずれは仙台から海外へ、という思いを抱く小畑にシュミットは英語習得の必要性を説いた。世界に出ていくために、身につけなければいけないことは山積みだ。仙台からはシュミットのみならず、かつては板倉滉(ボルシア・メンヘングラートバッハ)や西村拓真(横浜F・マリノス)も海外へ飛び出している。自身も彼らに続きたい。
「(初戦の)ドイツ戦は22時、もちろん見ますよ。普段は寝ている時間だけど」。ワールドカップでの先輩の雄姿を今度こそ、リアルタイムで見届けるつもりだ。
スタメン、サブ、メンバー外を行き来した2022年シーズン
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Profile
村林 いづみ
フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。