今シーズン、国外でプレーする日本人選手の中でも最も充実している選手の1人が鎌田大地だろう。ブンデスリーガでは早くも自己最高を上回る7得点を挙げ、初出場となったCLでも初ゴールを記録するなどすでに12ゴールをマーク。加えて、ボランチでも起用され新たな一面を見せている。日本代表にとってW杯前最後の強化試合となったカナダ戦でもボランチで出場し、その起用法にも注目が集まる26歳の充実ぶりについて、ドイツでの試合取材を通して本人の声を聞いている中野吉之伴氏が詳らかにする。
フランクフルトで主軸としてプレーする鎌田大地の進化が、今季さらに進んでいる。
これまで主戦場としてきたトップ下だけではなく、ボランチへも活躍の場を移しているが、付け焼き刃感がまったくなく、これまで以上の存在感を発揮している。本格的な中盤の選手として、ファンからの信頼も絶大だ。
それこそボランチでプレーするようになってから、ボールへのアプローチや相手へプレスをかける時の勢いが明らかに増している。競り合いで負けることはほとんどないし、寄せるだけではなくボールを奪い切るシーンが数多く見られるのは間違いない。
ドイツの地元紙もそうした様子を取り上げて「鎌田が急変した」とか「守備面で急成長」というニュアンスの記事をアップしている。ただ、本人はそのあたりをやんわりと否定する。急にできるようになったわけではない、と。
「本当にずっと前から言ってますけど、別に自分がディフェンスできないと思ったことなんて一度もない。そもそも、トップ下での守備と6番(ボランチ)での守備は違う。前線の選手の守備は(相手の攻撃を)限定する守備だし、そうなるとボールは(なかなか)取れない。ボランチだと(味方が)限定してくれたところへ潰しに行ける。だから周りからの見え方の違いでしかないというか、僕自身はずっと『できる』って言ってたので、驚きはないという感じです」
鎌田が言うように、ポジションにおけるタスクの違いがプレー面に及ぼす影響は間違いなくある。これは鎌田だけではなく、遠藤航もそうだった。アンカーでプレーする時とインサイドハーフでプレーする時とではタスクが違うから、競り合いの場面での優先順位も変わってくる。そうなればそこから生じる1対1の競り合い勝率などのデータだって変わってきて当然だ。
ただ一方で、ポジションが変わったことだけが要因ではないと思われる。というのも、鎌田がトップ下で出場している時のプレーも変わってきているからだ。オリバー・グラスナー監督が就任した昨シーズン以降、以前と比べて明らかにボール保持者へアプローチする時の勢いがアップしているし、ボールを奪取できるシーンが増えている。
外されても、長い距離を走らなくてはいけなくても、連続で守備に行くのが当たり前。そうした選手としての成熟さが、どのポジションで起用されてもコンスタントに優れたプレーができる確かな下地となっているのだろう。
口にする手ごたえ
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Profile
中野 吉之伴
1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。