いよいよ開幕するカタールW杯に向け、最後の準備の機会となったカナダ代表との試合に1-2で敗れた日本代表。日本代表を追い続けてもらっているらいかーると氏が、この試合から見て取った違和感とは? ピッチ上で起こっていたことを分析する。
前回大会では直前の親善試合で最適解を見つけたように、W杯での試行錯誤は直前まで続くことが恒例となっている。国内組を中心とするE-1や、ケガ人がいたためベストメンバーとは呼べない形で行われた9月のキリンチャレンジカップでの活躍がカタール大会のメンバー構成へ強く加味されていることも、無駄な試合なんてないことの証拠となるだろう。となれば、このベストメンバーからほど遠いスタメンとなっただろうカナダ戦も、後から振り返ってみると、大きな意味を持つ試合となっても不思議ではない。
本大会では[4-2-3-1]をメインで戦うことを選手やスタッフが明かしているように、この試合も[4-2-3-1]で臨んだ。配置のサプライズがあるとすれば、相馬勇紀の右サイドと久保建英の左サイド起用だろう。お互いの長所を考えれば立ち位置を入れ替えた方がベターだが、本来のスタメンで考えれば久保を左サイドで起用することが決定していると考えるべき采配となっている。相馬の右サイドは万が一のテストかもしれないが、シンプルに最も元気だから起用された可能性が高い。お互いの長所よりも、本番を意識した配置は何を優先しているかを周りに示すことになった。
先制するも、見て取れた選手間のズレ
開始早々のロングボール合戦(ただし、その中でもカナダは執拗に日本のSBを狙う意思を早々に見せていた)が終わりを告げると、日本がボールを保持する形で試合は展開していく。ボール非保持のカナダは[4-4-2]で配置を構成し、プレッシング開始ラインをハーフライン付近に設定することで、日本はボールを保持することを許される格好となった。
本大会ではボール非保持で勝負するつもりであろう日本だが、このように相手がボールを奪いに来なければボールを保持する状況になってしまう。それでもロングボールの連打によって相手にボールを渡しながらトランジション勝負に持ち込む方法論もあるが、相手のプレッシング開始ラインがカナダのように低ければ裏のスペースはない。となるとロングボールの終着点は空中戦になるが、今大会のメンバーには空中戦の的になれるような選手が前線におらず、必然的にボールを保持した方が効果的となる人員構成となってしまっている。
田中碧と柴崎岳のセントラルハーフコンビは一方が相手の2トップの間に立ち位置を、もう一方は比較的自由に動く役割分担でプレーしていた。序盤は田中が右SBの位置に移動することで、カナダの[4-4-2]のプレッシングの様子を見る展開となった。
それぞれの配置が噛み合う中で日本の変化がセントラルハーフの移動だとすると、カナダの方は配置の噛み合わせを受け入れる序盤戦となった。ボール非保持で勝負する予定の日本は相手陣地から果敢にプレッシングに行くことで、カナダにロングボールを蹴らせることに成功。ボールを奪ったらカウンターとボール保持を織り交ぜながら試合を進めていく。ロングボールを繰り返す中で、カナダは徐々にセントラルハーフが最終ラインに下りる移動を繰り返すようになるが、ボール保持が安定するのはもう少し先の話である。
日本のボール保持に話を戻す。柴崎と田中がボールを保持する立ち位置とプレーをしていた一方で、シンプルに速攻を狙う選手も多かった。良く言えば長短のパスを織り交ぜる攻撃とも言えるし、悪く言えばこの試合の狙いが何なのかがわかりにくい立ち上がりとなった。おそらくは、チームの狙いと実際にピッチで効果的なプレーは何かを個々の選手で考えた時に、ズレがあったと考えるのが自然なのかもしれない。
7分に日本が先制する。ロングボールの競り合いのこぼれ球を谷口彰悟がダイレクトで柴崎に繋ぎ、南野拓実とのワンツーで時間を作ると、柴崎の必殺技であるスルーパスに飛び出して合わせたのは相馬だった。記憶にない右サイドでの起用で結果を出した相馬と、必殺技を披露した柴崎の調子の良さがうかがえる場面だった。なお、本大会でもシンプルに元気な選手を起用したほうが良い!という過去からの伝言は確かに存在している。
カナダの圧力の前に後手後手に
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。