20日に開幕を迎えるカタールW杯。大会前の醍醐味と言えば優勝予想や勝敗予想だが、結果はFIFAランキングからも予測できるという。その仕組みをスポーツデータの統計的解析を専門とする、名城大学情報工学部の小中英嗣准教授に解説してもらおう。
日本がグループステージを突破する確率は41%、優勝確率が最も高いのはブラジルの19.8%――。主要国際大会につきものの予測だが、これが「FIFAが予測している値である」としたら、あなたはどう思うだろうか?
「FIFAランキングポイント」とは?
11月1日に日本代表の登録メンバーが発表され、いよいよ開幕が迫ってきたFIFAワールドカップ2022カタール大会。世界各国の代表チームがどういった試合を演じるのか、気分が盛り上がってきたサッカーファンも多いだろう.
そんな中、筆者が注目しているのが「FIFAランキング」だ。
FIFAは加盟する全211カ国の実力を適切に評価するため、公式の順位表であるFIFAランキングの算出手法を何度か改正している。実力を正しく反映していない、計算が過度に複雑である、などの欠点を解決するためであった。実際、1998年に日本が9位(同国歴代最高順位)を記録したことなどは、初期のFIFAランキングに大きな欠陥があったことの証拠としてよく参照される。
最後に改善が行われたのは、2018年のロシアW杯後。最新版では、対象となる試合ごとに以下の手順で順位を決めるランキングポイントを更新する。
手順①対象となる2チームの試合前のランキングポイントを確認する。
手順②チームのランキングポイント差から予測勝率を算出する。
手順③試合後、以下の更新式で両チームのランキングポイントを更新する。
(試合後のランキングポイント)=(試合前のランキングポイント)+(試合の重要度)×{(試合結果)-(予測勝率)}
計算式内の「試合の重要度」は「国際Aマッチ期間内の親善試合」では10、「W杯本戦」では50または60と設定されている。「試合結果」は勝ち、引き分け、負けをそれぞれ1、 0.5、 0に対応させているため、重要な試合ほどランキングポイントが大きく変動する仕組みだと言えるだろう。
FIFAが公開している文書を読むと、「ランキングポイント差」と「(予測勝率)=(勝利)+(引き分け)/2の確率」の関係として下図を想定している。例えばランキングポイント差が200の場合、「(勝利)+(引き分け)/2の予測確率」は約68.3%だ。
このようにFIFAランキングは、ランキングポイント差と試合結果の予測確率を結びつけている。実際の試合結果との差は「ランキングポイントを増やすべきか?減らすべきか?その量は?」という情報を与え、試合ごとに更新を行うことで各チームの実力を導く算段だ。
このランキング方式は、チェスの実力評価手法として定評のあった「イロ・レーティング」の一種である。FIFAの女子ランキングは開始時の2003年からいち早く導入しており、さらに要素の多い類似の手法を取っている。他競技に目を向けるとラグビーも2003年から、バレーボールも2020年から似通ったランキング方式を採用するなど、ある種「決定版」とも言えるものである。
「日本のGS突破確率41%」の種明かし
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Profile
小中 英嗣
名古屋市出身。理工系学部の大学教員。専門は数理最適化を伴うシステム制御理論。趣味のスポーツ観戦と実益を兼ね、2015年ごろからはスポーツデータ分析、特にランキング設計、結果予測、選手評価など新しい指標の開発などを研究課題として活動中。名古屋グランパスを応援しています。