11月6日、4位鹿児島ユナイテッドFCを3-0で下し、いわきFCのJ2昇格とJ3優勝が決まった。JFLからの昇格1年目での快挙達成、それだけでなく彼らはクラブ創設以来8シーズンで7回の昇格を成し遂げたことになる。地域リーグ時代から成長を追う宇都宮徹壱氏が、このクラブが昇格を繰り返せる理由を考察する。
11月6日、J2昇格とJ3優勝を同日に達成
「駆け抜けたJ3」──。
11月6日の福島民友による号外では、このような見出しが踊っていた。この日、Jヴィレッジスタジアムで行われたJ3リーグ第32節で、いわきFCは鹿児島ユナイテッドFC戦に3-0 で勝利。同日、2位の藤枝MYFCと3位の松本山雅FCが敗れたため、この日のうちにいわきのJ2昇格とJ3優勝が時間差で決まった。
この日、対戦した鹿児島の順位は4位。いわきとは第9節から第28節にかけて、抜きつ抜かれつの首位争いを繰り広げてきた。ところが今季最後の直接対決では、いわきが4倍近いシュートを放って圧倒。もっと点差が開いた可能性さえあった。
すでに忘れている方もいるかもしれないが、いわきは今季JFLから昇格したばかりのルーキーである。JFLからJ3に昇格し、わずか1シーズンでJ2昇格を果たしたのは2015年のレノファ山口FC以来の快挙。しかし当時のJ3は12クラブとJリーグ・アンダー22選抜が参加するのみ。J2 経験を持っていたのは3クラブだけだった。
今季のJ3は18クラブで、しかも半数の9クラブがJ2を経験している。そのうち4クラブがJ2から落ちてきたばかり。2つの昇格枠をめぐる争いは、これまで以上に熾烈を極めることとなった。J3 創設から9シーズン目の今季は、史上最も厳しいシーズンだったわけだが、いわきは2試合を残して「駆け抜けた」のである。
いわきの凄さは、それだけでない。JFL1年目の2020年を除いて、ずっと優勝して昇格を繰り返しているのだ。2015年(福島県3部)から19年(東北1部)まで、すべてのシーズンで優勝。上を目指すクラブなら、ここまではわりとよくある話だ。しかしいわきは、2019年の地域CLでも、初挑戦で初優勝してJFL昇格を果たしている。
翌20年のJFLは7位に終わったものの(コロナ禍のため試合数は半分だった)、21年には見事優勝。そして今季もJ3で優勝して、J2昇格を決めてしまった。8シーズンの間に7回の昇格(しかもすべて優勝)。この記録は、当面破られることはないだろう。
常勝監督がチームを率いていたわけではない(村主博正監督は優秀な指導者だが、指揮を執るのは今季から。トップチームの監督はいわきが初めてだった)。実績のある有名選手がいるわけでもない(今季の登録メンバーに外国籍選手や元日本代表選手の名前はない)。そんないわきが、なぜこれほど昇格を繰り返すことができたのだろうか?
そのヒントは、上掲した写真の中に隠されている。
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Profile
宇都宮 徹壱
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。2010年『フットボールの犬』(東邦出版)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、2017年『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)でサッカー本大賞を受賞。16年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(https://www.targma.jp/tetsumaga/)を配信中。