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ユナイテッドのプレス空転の要因とは? シティ快勝のマンチェスターダービーを東大ア式蹴球部テクニカルスタッフが分析する

2022.10.07

開幕から無敗を継続するマンチェスター・シティと、連敗スタート後に4連勝、首位アーセナルに土をつけているマンチェスター・ユナイテッドが激突したマンチェスターダービー。6-3でホームのシティに軍配が上がったものの、前半終了時点で4-0とスコア以上にシティが圧倒する格好となった要因はどこにあったのか。東大ア式蹴球部テクニカルスタッフの高口英成氏が分析する。

 試合直前に筋肉の負傷が明らかとなったロドリと代表戦でケガを負ったジョン・ストーンズを除けば、スタメン陣容に大きなサプライズはないマンチェスター・シティ。一方のマンチェスター・ユナイテッドはというと、こちらもリーグ戦では直近の試合となるアーセナル戦とまったく同じイレブンを起用してきた。

保持の引き出し

 立ち上がりからシティがボールを握る展開。シティの[4-1-4-1]に対して、ユナイテッドは[4-2-3-1]でプレスをかける。ユナイテッドのプレスは、1トップのマーカス・ラッシュフォードがシティCBの横パスを封じつつ、中盤の配置が噛み合うことを利用したマンツーマンのような形を採用していた。ケビン・デ・ブライネに対するクリスティアン・エリクセン、ベルナルド・シルバに対するスコット・マクトミネイ、イルカイ・ギュンドアンに対するブルーノ・フェルナンデスの対応は執拗で、ポジションチェンジに対しても懸命についていくようなタスクを背負っていた。

 しかし、詳しくは後述するが、このことがシティ優位の展開を加速させることになる。

 シティは今シーズン通して採用してきたウォーカーのボランチ化を引っ込め、両SBに幅を取らせる[4-1]型のビルドアップで前進を試みる。試合を通じてシティはいくつかの方法でユナイテッドのプレスを空転させていくが、序盤のこの時間帯でまず見られたのが“ホーランドの偽9番化”であった。

 両サイドハーフ(SH)が相手のSBを見張る形のユナイテッドのプレスでは、上の図のようにSHの裏、ボランチの脇にスペースがある。横幅は最低4枚でないと守れないとされるサッカーにおいて、手薄な守備ラインをポジショニングで攻め立てるのはもはや定石となっている。シティはデ・ブライネとベルナルドがこの位置に構えることで、それぞれエリクセンとマクトミネイを左右に引きずり出すことに成功。それによって生じた中央のスペースへホーランドがタイミング良く顔を出す。2分の立て続けのチャンスシーンも、元をたどればナタン・アケから縦パスを引き取ったホーランドがサイドへと展開している。

 しかしながら、配置の面だけを見れば、シティはホーランドをあえて落とす必要性がないことに気づく。後方ではアケとマヌエル・アカンジの2枚に対して、プレスはラッシュフォード1枚。横パスと縦のドリブルコースを完璧に切ることは難しいので、結果的にシティのCBは楽にボールを運ぶことができていた。あとは引きつけてリリースを繰り返すだけ。

 そして、ここでもユナイテッドの守備がマンマーク気味であったことが裏目に出る。運んでくるボールホルダーに一瞬気を取られた隙に、自分がマークしていた選手にボールを受けられてしまうというシーンが頻出していた。後方で+1を作って優位性を前に引き継いでいくという教科書通りのポジショナルプレーで、序盤からシティが主導権を握る展開となる。

 こうしてシティのペースで進んだ試合は、開始8分に早くもスコアが動く。サイドに流れたベルナルドのグラウンダーのクロスにフィル・フォデンが合わせ、シティが先制。マンツーマン気味のユナイテッドは、ジャック・グリーリッシュとベルナルドのポジションチェンジに対して、マクトミネイとディオゴ・ダロトがそのままついて行く形となり、シティのポジションチェンジに対して後手に回る結果となってしまった。

ゴールラッシュの口火を切ったフォデン(右はベルナルド)

プレスの思惑

 ところで、ユナイテッドのプレスの意図はどのようなものだったのだろうか? そして、なぜシティをハメることができなかったのだろうか?……

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マンチェスター・シティマンチェスター・ユナイテッド

Profile

高口 英成

2002年生まれ。東京大学工学部所属。東京大学ア式蹴球部で2年テクニカルスタッフとして活動したのち、エリース東京のFCのテクニカルコーチに就任。ア式4年目はヘッドコーチも兼任していた。

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