今月28日、サガン鳥栖は福井太智が来年1月からバイエルンに完全移籍することを発表した。U-19日本代表でもプレーするパリ五輪世代の逸材はなぜ、主戦場とする鳥栖U-18からトップチーム定着を狙うのではなく、いきなり欧州屈指のビッグクラブへと羽ばたく決断を下したのか。その背景に福井を中学生時代から追い続ける川端暁彦氏が迫る。
目標とする選手はマンチェスター・シティのMFケビン・デ・ブルイネだと言う。
「毎試合ゴールに絡んでいるような選手でいながら、同時にゲームもコントロールできる。あの人こそ自分の目指している“怖い選手”で、本当に尊敬というか憧れていますね」
そう熱く語ってきた福井大智に、「一緒にプレーしてみたい?」と聞いてみたところ、「そうなったらいいし、そういう選手になりたい」と返ってきた。一般的な日本の高校3年生であれば単なる夢物語だろうけれど、福井にとってはリアリティのある目標だ。バイエルン・ミュンヘンと契約するというのは、“そういう選手”になることを求められるということでもある。
福井は来年1月、サガン鳥栖からバイエルンへ移籍することが正式決定。今年尚志高校からシュツットガルトへ加入したDFチェイス・アンリと同様に、まずはセカンドチームなどでプレーしながらトップ昇格を狙う格好となる。
実際にトレーニングにも参加済みで、「コミュニケーションが難しい部分もありましたけど、徐々に慣れていって自分らしいプレーはできた。手応えはありました」と明言。監督からは「好きにやってくれ」と言われたそうで、持ち前の技術の高さや判断の良さについて高評価を受けたようだ。
日本とバイエルンの関係はもとより深い。歴史的にもそうだが、現実的にも日本サッカー協会ともパートナーシップを提携している間柄である。各国の協会や連盟ではなく、単一のクラブとこうした関係を築くのは珍しい。日本サッカー協会の分析担当である片桐央視氏が1年間にわたる研修を行うなど関係性は深く、ユース年代の有望選手の練習参加なども行われるようになっている。日本の選手の情報が継続的に入る状況があり、その中で福井に白羽の矢が立った格好だった。
「このまま日本にいては追いつけない」
コロナ禍でユース年代の選手が国際経験を積む機会が途絶えてしまう中、今年5月、久々に欧州の風を感じられる機会があった。フランスで開催されたモーリスレベロトーナメント(旧称・トゥーロン国際大会)にU-19日本代表が出場したのだ。その中に、福井もいた。……
Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。