この重要な終盤1カ月間を5勝1分無敗で4位浮上。9月25日に敵地で行われた第38節で千葉に0–1と競り勝ち、勝ち点64(17勝13分8敗)としたロアッソ熊本が、3位〜6位が進出するJ1参入プレーオフ圏入りに大きく前進した。J2昇格シーズンに下馬評を覆す大躍進。その舞台裏、そしてラスト4試合を前にしたチームの好循環と充実感を、地元で長年クラブを追い続けてきた井芹貴志が伝える。
「残り4試合、全部勝つバイ!」
通算の戦績は4勝6分9敗で、最後に勝ったのは2017年7月16日のJ2第23節。フクアリでのゲームに限れば2015年7月26日の第26節以降、勝利がなかったジェフユナイテッド千葉から今季17勝目を挙げたロアッソ熊本は、勝ち点を64に伸ばして4位をキープ。J2に「復帰」して1年目のシーズンながら、期待を大きく上回る成績で終盤を迎えている。
この試合の後、殊勲のゴールを決めた在籍10年目のDF黒木晃平は、アウェイ側ゴール裏スタンドの2階席まで赤く染めたサポーターに向かって感謝の思いを述べたのに続けて、「残り4試合、全部勝つバイ!」と拳を突き上げ、勝利後の儀式「カモンロッソ」のイントロ部分を歌ってサポーターを先導した。
その4試合だが、ラスト2戦でプレーオフ圏を争っているベガルタ仙台、そして優勝でのJ1復帰を目論む横浜FCとの直接対決が控えていることを思えば、間違いなく厳しい戦いになるだろう。しかしながら、その険しい峰をも越えて未踏の場所に連れて行ってくれそうな勢いが、今の熊本にはある。
開幕前に各メディアが行う順位予想企画では、昇格したばかりということもあって降格圏を予想するものが多く、実に歯がゆかった。かく言う私も、さすがに1年で降格するようなことはないと考えていたが、それでも、勝ち点差は別として最終順位は14位前後、トップハーフに入れば上出来、という感覚だったのが正直なところ。
ところがどうだろう、蓋を開けてみれば、シーズン序盤から堂々の戦いぶり。リーグ戦前半を7勝9分5敗、勝ち点30の9位で折り返すと、第24節から3連勝を含む5戦負けなしでプレーオフ圏の6位に浮上。第32節のアルビレックス新潟戦には敗れたものの、第33節からは東京ヴェルディ、大宮アルディージャ、V・ファーレン長崎といった力のあるチームからいずれもシーズンダブルとなる白星をもぎ取って3連勝を飾り、22チームで年間42試合を戦うようになってからのクラブ記録だった2012年シーズンの勝ち点55を更新。ホーム戦では7月以降8戦負けなしと、クラブ史上最高位とプレーオフへの切符をいよいよつかみそうなところまできている。
“6試合6試合”…大事なのは常に、次のゲーム
今季の熊本は、「6試合ごとに勝ち点10以上」という目標を掲げて戦ってきた。つまり42試合=7クールで、勝ち点70がシーズン終了時のラインということになる。この理由について、大木武監督は開幕前、次のように話していた。……
Profile
井芹 貴志
1971年、熊本県生まれ。大学卒業後、地元タウン誌の編集に携わったのち、2005年よりフリーとなり、同年発足したロアッソ熊本(当時はロッソ熊本)の取材を開始。以降、継続的にチームを取材し、専門誌・紙およびwebメディアに寄稿。2017年、母校でもある熊本県立大津高校サッカー部の歴史や総監督を務める平岡和徳氏の指導哲学をまとめた『凡事徹底〜九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由』(内外出版社)を出版。