テン・ハフ時代の「ユニット」で動くサッカーからフィールドプレーヤー10人が流動的にポジションを変える「ムービング・フットボール」へと生まれ変わった新生アヤックス。オランダリーグで開幕6連勝、CL第1節ではレンジャーズを4-0で粉砕し、意気揚々とアンフィールドへと乗り込んだ。そこで待ち受けていたものとは――?
レンジャーズ監督ファン・ブロンクホルストの記憶
9月7日、CL第1節のアヤックス対レンジャーズ戦が終わり更衣室に戻ると、レンジャーズのファン・ブロンクホルスト監督は選手たちにこう声をかけたという。
「ウェルカム・チャンピオンズリーグ。これがCLのレベルだ」
立ち上がりからアヤックスがレンジャーズを圧倒し、前半のうちに3-0の大差がついた。これ以上、傷口が広がることを防ぐため、後半のレンジャーズは4バックシステムから5バックシステムにし、なんとか試合を4-0で終えることができた。
この時、ファン・ブロンクホルストは自身が現役時代に初めてCLに出た時のことを思い出していた。
「私にとって最初のCLの試合は、ユベントスとのアウェイゲーム(1997年9月17日)だった。ジダン、デル・ピエロ、デシャン……。そんなビッグネームのいるユベントス相手に、フェイエノールトは30分で4点を奪われ、酷い目にあった(筆者注:実際は34分間で3失点。結果は5-1でユベントスの勝利)。
この時、私は自分が目指すべきレベルを知り、そこに到達するために努力を重ねた。うちのチームの選手たちにも、同じようなことを感じてほしい。この経験を次の試合につなげるんだ」
05-06シーズン、バルセロナの一員としてCLの優勝を経験し、オランダ代表の主将として2010年W杯で準優勝を果たした名手にとっても、CLの初舞台はほろ苦いものだったのだ。
このようなエピソードが、試合後の記者会見で敗軍の将から打ち明けられるくらい、レンジャーズ戦のアヤックスのレベルは高かった。
レンジャーズ戦のアヤックスは「ボールは疲れない」というヨハン・クライフの名言が霞んでしまうくらい、フリーランニングやパス・アンド・ゴーを繰り返していた。例えば左サイドでSBブリント、ウイングのベルフワイン、CFクドゥスの3人がパスとランニングを駆使してゴールライン際までえぐった時には、右サイドにいたMFベルフハウスがDFの視界から消えながら中央に全力で走り込みを開始していた。
アヤックスの献身的なランニングを見ていて「ノー・スウェット、ノー・グローリー」という言葉を、私は思い起こしていた。
「汗をかかずに栄光は訪れない」というこの言葉はクルブ・ブルッヘのスローガン、つまり、アルフレッド・スフローダー監督がアヤックスに来る前に働いていたクラブのモットーだった。
新生アヤックスの「ムービング・フットボール」
テン・ハフ(現マンチェスター・ユナイテッド監督)が率いた昨季のアヤックスは、チームの中にユニットのあるチームだった。左サイドはブリント、タディッチ、フラーフェンベルフがトリオを、右サイドはマズラウィとアントニーがコンビを作り、自陣ゴール前はCBティンバー、マルティネス、MFアルバレスが守備とビルドアップで重要な役割を果たした。
しかし、今季のアヤックスは特定のユニットが存在しない。昨季の右サイドを形成したアントニーとマズラウィは移籍した。ブリントと息の合ったプレーを見せていたタディッチは今季、右サイドに回ったことでコンビは解散された。……
Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。