進化のスピードが上がり続けているサッカー界。その進歩についていくために、指導者たちには日々メソッドのアップデートが求められる時代だと言える。最新のトップレベルのトレンドについて、指導者を養成する場ではどのように伝えられているのだろうか。去る5月、ドイツで開かれた国際コーチ会議に参加した中野吉之伴氏がレポートする。
「カギとなるのはいつでも試合だ。トップレベルではどのようにプレーされているのか。どのように自分たちはプレーしたいのか。自分たちのトレーニングや育成にどのように落とし込むべきなのか」
2022年5月にドイツのフライブルクで開催された国際コーチ会議で、UEFAテクニカルチームのウィリ・ルッテンシュタイナーによる「インターナショナルなモダンサッカーにおけるトップトレンド」というテーマの講義があった。
世界のサッカーは変化し、進化していると言われているが、何が、なぜ、どのように変わってきているのか。そしてそれは今後どのような方向へと向かっていくのか。それまでの流れや主流から今の傾向や特徴を知ることで、サッカーのメカニズムを整理する作業はとても大切だ。
ルッテンシュタイナーはCL、EL、カンファレンスリーグ、欧州5大リーグ、EURO、W杯を分析対象とし、ここ数年間のトレンドをプレゼンしてくれた。今回はその内容を紹介したい。
マルチフォーメーションの標準実装
《試合の状況に応じたマルチフォーメーション》は、今や新しいものではないだろう。2021-22のCLグループステージにおいて、毎試合同じフォーメーションでスタートしたのは10例のみだったという。試合ごとに、そして試合の中で相手とのかみ合わせ、試合展開/状況などの変化に絶えず順応することは《できて当たり前》のところまできていると言えそうだ。
ビルドアップ時のポジショニング、ゲームメイク時のポジショニング、チャンスメイク時のポジショニング、ゴールメイク時のポジショニングとそれぞれの局面で、それに応じて意図を持ったポジショニングが必要となってきている。当然、ボールロスト時にすぐ対応できるような準備をしながらボールを運ぶことが欠かせないし、ボールロスト後に誰が、いつ、どこから、どこへ動くべきかが明確になっていないとトップレベルでは致命傷となる。試合展開や相手との駆け引きでシステムやプレスを仕掛ける位置と方向、攻守の狙いを瞬時に見極め、可能な限り速やかに最適な判断を下せることが指揮官/選手/チームには求められている。
この点に関して印象的だったのが、ルッテンシュタイナーが《攻守におけるチームとしてのコレクティブな準備と対応》を強調していたこと。どれだけの破壊力を持ったインディビジュアリストがいたとしても、それだけでは厳しいという。
「パリ・サンジェルマン(PSG)が1つの例になる。メッシ、ネイマール、ムバッペ。彼らは非常に優れた選手だ。1人で状況を打開できるし、素晴らしいアイディアを持っている。間違いなくワールドクラスの選手たちだ。ただ、あまりにも守備における貢献が少な過ぎる。そしてトップレベルのチームとの試合となると、どれだけ残りの7人が守備を頑張っても守り切れるものではない。今のままでは、CLでタイトルを獲るのは相当厳しいと言わざるを得ない」
ここ5年間のCL優勝クラブを見ると、確かに説得力がある。昨季のレアル・マドリーも、その前のチェルシー、バイエルン、リバプール、レアル・マドリーも、それぞれ異なるチームフィロソフィがあるとはいえ、チームとしての守備組織の作り方は整理されていたし、選手それぞれが攻守に関わり続けるというところでは群を抜いていた。
“ポジション”の変化
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Profile
中野 吉之伴
1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。