8月25日に開催されたACL(AFCチャンピオンズリーグ)準決勝。1-1で迎えた延長後半、116分にショートコーナーから一瞬の隙を突かれて全北現代に1点リードを許した浦和レッズは猛攻を仕掛け、120分にキャスパー・ユンカーが起死回生の同点弾。2-2で激闘の行方がPK戦に委ねられる中、本拠・埼玉スタジアムのゴール裏に駆けつけたサポーターの大声援を背に、最初のPK2本を連続で防ぎ浦和を勢いづけたのが絶対的守護神・西川周作だ。 5大会ぶりのACL決勝進出を呼び込んだ36歳の成長を支えるジョアン・ミレッGKコーチの改革を、同クラブの番記者であるジェイ氏が振り返る。
「先に動かなくても…」守備範囲を広げた意識づけ
あまりにも劇的な試合展開を経て、浦和一体で勝ちとったACL決勝進出。PK戦にまでもつれこんだ激闘で最後に主役となったのは、GKの西川周作だった。それまでの120分も含めて、ジョアン・ミレッ新GKコーチと今季から取り組んできた成果を存分に発揮してもぎとった勝利。36歳にして、まだまだ進化を見せている。
「ジョアンはいつも『俺も一緒にプレーしているからね』と声をかけてくれています。僕の気持ちを一番よく分かってくれている人ですし、(今年の)1月から8ヵ月弱ですけど、ジョアンの人柄や教えによって成長を感じられていますし、かなり信頼しています」
このACL準決勝・全北現代戦も、いきなり小さくない山場があった。開始8分、右サイドからのアーリークロスに鋭く反応し対処する。キャッチした地点はゴールエリアとペナルティスポットの中間、中央ややファー寄り。昨季までならチャレンジしていなかったであろう距離だ。全北現代のFWグスタボもわずかに間に合っていなかったが、このポイントでぴったり合ってしまえば即失点という際どいクロスだった。
「いかにクロスをインターセプトして、打たせる前に取っちゃおう、弾いちゃおうという狙いもあります。流れの中でのクロスは試合中に何本もありますし、割合としても多かったりするので、そこを防ぐことでより失点も減るんじゃないかなと思ってますね。実際にやってて減っている、打たせてない感はあります。上がったボールは全部出ていって取るのが理想ですし、そこは追求していきたいですね」
今年1月から取り組んできたポジショニングやステップの改善により、西川の守備範囲は格段に広くなった。ニアを空け気味にするポジション取りや大股のステップとともに、大きく変わったのは動き始めるタイミングだろうか。
例えば、サンフレッチェ広島の大迫敬介などはクロスが上がった瞬間から動き始めてアタックを誤るシーンが散見されるが、浦和のGK陣はみな、一瞬待ってから動き始める。これは西川も「別に先に動かなくても、来たボールを分析して、スタートの足がちゃんとできていれば良いステップで動ける」と語っているが、クロスボールに対しての意識づけも大きい。
シーズン前の沖縄キャンプで印象的だったのが、ジョアンの『補講』を受けていた鈴木彩艶が、ひたすら『クロスを見送る』ことを繰り返していたことだ。ジョアンは鈴木の傍らでずっと何やらささやいていたが、クロスボールは長い距離を移動してくるのだから、慌てて動く必要はないということの意識づけを行っていたという。ポジショニング、ステップ、クロスとはどういったボールなのか。各要素の「¿Por qué?(なぜ?)」がすべて繋がっている。
ACL準決勝で披露した集大成のセーブ
浦和GK陣の進化要素として、地味ながら欠かせない要素がもう一つある。フットボリスタ本誌のインタビューにて、同じくジョアンの指導を受けた林彰洋が「今までと圧倒的に違うと感じるくらい速くなった」と語っていたのが『起き上がるスピード』、いわゆるダブルアクションだ。……
Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。