ワールドカップイヤーの要注意人物_WEB特別版
昨シーズンはリーグ戦9位に終わったばかりでなく、終盤にはフロントに対するファンの不満が爆発。さらに夏の移籍市場では主力だったゴンサロ・ゲデスが流出と、明るい話題が少ない中で新シーズンを迎えたバレンシア。新指揮官ジェンナーロ・ガットゥーゾの下でスタートを切ったチームにおいて、今まで以上の期待を背負うことになるのがカルロス・ソレールだ。名門復活が実現する時、その中心にはカタールW杯に出場するスペイン代表でのプレーにも注目が集まるクラブ生え抜きの25歳の姿があるはずだ。
ある選手の退団が別の選手の道を開くこともある。カルロス・ソレールの場合はそれだ。
2020年夏、ダニ・パレホがビジャレアルへ旅立った。バレンシア側からすればキャリアの円熟期にあるキャプテンが近隣のライバルへ行くのはネガティブな出来事でしかなかったが、ソレール個人にとってはポジティブだった。
あの移籍を境にソレールは別人になった。
直前の2019-20ジーズン、彼はレギュラーでありながら3ゴール0アシストという寂しい数字を残していたが、翌2020-21は同じような出場時間で12ゴール9アシスト、昨季は12ゴール5アシストと突然ゴール良し、アシスト良しの万能のアタッカーとして開花した。
と言っても未知の才能が開いたのではなく、既知のそれが開いただけだ。
パレホ退団を機に組み立ての全権を担う
ソレールの才能はよく知られていた。だからこそ、19歳でトップデビューした翌シーズンにはレギュラーをつかんだ。バレンシアの将来を担う者なら当然である。
ポジションは右サイドだった。サイドではなくセンターが適任であることもよく知られていた。だが、センターには当時のバレンシアを担う存在だったパレホがいた。だからソレールは視野とプレーの種類が限定されるサイドで、得意ではない上下動をしながら時間と体力を費やしていた。2019-20には左サイドへ移った。右ウインガーとしてフェラン・トーレスが台頭したからだ。
それがパレホの退団でセンターへの道が開いた。
新ポジションは一昨季、昨季とも[4-4-2]のダブルボランチの右。2年前のマルセリーノ・ガルシア・トラル監督、昨年のホセ・ボルダラス監督ともに自陣に引いてのロングカウンターを主戦術としていた。ソレールが攻撃にある程度専念できるように、ボランチの相棒には守備的なMF(2季前がジョフレイ・コンドグビア、昨季がウロシュ・ラシッチ)が置かれていた。
この2年間のソレールは、ボールを使ったアクションのすべてを任されていた。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。