かつて欧州2連覇を達成した古豪で、98-99シーズン以来のプレミアリーグ復帰を果たしたノッティンガム・フォレスト。今夏すでに1億ポンド(約160億円)超の大型補強を敢行し、1勝1分1敗のスタートを切ったチームで注目したい選手の一人が、6歳から在籍したリバプールを離れ、移籍金1700万ポンド(約27.2億円)で4年契約を結んだ右SB、ネコ・ウィリアムズだ。まだまだこれからが楽しみな2001年生まれの21歳、3カ月後には初のW杯も控えるウェールズ代表の若き才能について、Yuki Ohto Puro(@mateinappa)さんが綴る。
9年前、8月30日のことだった。まだ残暑厳しい炎天下の中、私は味の素スタジアム西競技場の観客席に座っていた。
今も続く伝統ある「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ」は現在では国内外合わせ32チームが参加する巨大なトーナメントとなったが、第1回目の2013年大会は12チーム参加と小規模なものだった。大会の目玉は何と言っても2年前に川崎フロンターレから渡西した若き日の久保建英選手が所属したバルセロナU-12。その中には大会得点王を獲得したアンス・ファティ少年や、のちにマンチェスター・シティで名を上げ母国代表へと駆け上がったエリック・ガルシア少年の名前もある。まさにスペインの時代を担う綺羅星のごとき才能が集ったチームと言えるだろう。
決勝戦で対戦したのはかつてラ・マシアでメッシ、ピケ、セスクといった超一級のスターを育て上げた名伯楽ロドルフォ・ボレル(現在はペップ・グアルディオラの右腕として働いている)に率いられたリバプールU-12。私はこの大会を観るために――厳密に言えば柏レイソルU-12とリバプールU-12の準決勝を観るために――遠路はるばる飛田給まで足を運んだ。そして、その試合で宝石を見つけた。それが右ウイングのネコ・ウィリアムズ少年だった。彼は周りの子たちと比べて少し背が小さく、すばしっこく、わずか50分の試合中にハットトリックを決めてみせた。来日メンバーの中にはその後トップチームデビューを果たすカーティス・ジョーンズやリース・ウィリアムズも加わっていたが、私の目は彼の輝きに釘付けになった。
あれから9年。ネコ少年は大人へ、そしてプロのフットボーラーへと成長した。代表選手としてウェールズを64年ぶりにW杯の舞台へと導き、ローン先のフルアムで1部昇格の原動力となった。そして今季、24年ぶりにプレミアリーグの戦いに挑むノッティンガム・フォレストへと旅立った。
16歳で右WGから右SBへ、そして鮮烈デビュー
2015年にリバプールの監督に就任したユルゲン・クロップは自身が現役時代に主戦場としていた右SBに特別な役割を与える。ドルトムント時代はヘルタ・ベルリンでウイングからSBに転向した経歴を持つウカシュ・ピシュチェクを獲得し、守備・攻撃両面のタスクをこなす仕事を与えた。リバプール加入後も、もともと才能ある中盤の選手だったトレント・アレクサンダー・アーノルドをコンバートし世界随一の右SBへと作り変え、現在進行系で彼を中心とした新戦術を編み出している。その流れは他のアカデミー出身選手も同様で、ネコは16歳の時に右ウインガーから右SBとなった。
16-17シーズンにプレミアリーグU-18、17-18シーズンからはプレミアリーグ2でコンスタントに試合に出始めると、リバプールが30年ぶりのトップリーグ優勝を果たした19-20シーズンには定期的にトップチームに顔を出し始めた。特に鮮烈だったのは2019年10月30日に行われたカラバオカップ4回戦、アンフィールドでのアーセナルとの試合。両軍ともに譲らず5-5でPK戦に突入したスリリングな戦いの中、94分の土壇場でディボック・オリギが決めた同点ゴールをお膳立てしたのがネコだった。ブカヨ・サカと対峙し守備面では課題を見せた彼は、しかしながら攻撃面においてはリバプールの火力を後方支援し続けた。この試合が18歳の彼にとってトップチームでの先発デビュー戦だった。
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Profile
Yuki Ohto Puro
サミ・ヒーピアさんを偏愛する一人のフットボールラバー。好きなものは他人の財布で食べる焼肉。週末は主にマージーサイドの赤い方を応援しているが、時折日立台にも出没する。将来の夢はNHK「映像の世紀」シリーズへの出演。