トレーニングというのは「決まったプレーを反復すること」ではなく「環境と相互作用すること」。理想は「選手がコーチに言われなくても課題を理解する」トレーニングデザイン――スウェーデンのAIKが実践している独特な育成理念の数々。それを確立した人物は選手経験がないどころか、もともとは音楽関係の仕事をしていてサッカーそのものとまったく関わりがなかったというから驚きだ。マーク・オサリバン。現在もなお研究者として探求を続けている異色の指導者の理論に迫る。
※『フットボリスタ第89号』より掲載
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マーク・オサリバンは一般的な指導者ではない。その証拠となるのが彼のプロフィールだ。
アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コークで経済学を専攻しながら音楽サークルの創設者となった青年は、大学を卒業すると音楽関係の仕事をスタート。スウェーデンのストックホルムに移り、8年間レコード会社で働いていた。愛する音楽に携わる仕事は、彼にとっては趣味に近かった。
そんなサッカーとは関係のない世界で暮らしていたオサリバンにとって、転機となったのが2009年。ストックホルム市が主催した教育プロジェクトのトップに選ばれ、音楽のワークショップやDJ体験を開催することになった。そこで彼は少年たちと両親、地域社会を繋ぐ役割を求められるようになる。気づけば子どもたちの教育における何でも屋になっていた彼は、サッカーのコーチとしても地元チームの指導をサポートするようになっていく。これがきっかけとなり、音楽好きの青年はサッカーの魅力に飲み込まれていく。
凝り性だったオサリバンは専門的な知識を学ぼうと考え、次々と資格を取得。フットボールマネジメントの資格や育成年代指導の資格に加えUEFA Aライセンスにも合格し、数年後にはサッカークラブからも注目される存在となっていた。
そして2014年11月、オサリバンはエンスケデIKで育成年代の選手とコーチをサポートするコーディネーター職に就任する。プロへの扉が開かれ、チームの哲学と育成メソッドを確立するというミッションを課せられた彼は指導者教育も担当するようになり、チームのアナリストとしても現場を経験。その後はエルブシェAIK FFでU-19のコーチと育成年代の教育を担当し、2017年からはスウェーデンの強豪クラブAIKで育成年代のメソッドを統括している。
スペイン、カナダ…その探求は世界へ広がる
その才能はヨーロッパ全土で高く評価されており、スペインのエスパニョールは2013年から彼を北欧地区のディレクターに指名。スペインのメソッドから多くの学びがあったと語るオサリバンはエスパニョールの北欧キャンプを計画したり、エスパニョールにスウェーデンのコーチや選手を視察で派遣したり、コーディネーターとして活躍したりしている。……
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。