敵地のベンチで自軍のマンチェスター・ユナイテッド撃破(1-2)を見届けた開幕戦を経て、8月13日の第2節ニューカッスル戦(0-0)、ついに三笘薫がプレミアリーグにデビューした。ブライトンの新戦力として、25歳の日本人ドリブラーが終盤15分間の出場で感じさせた期待と課題とは?
15分間のクオリティ
プレミアリーグ第2節、ニューカッスル戦の75分から登場した。15分ほどのプレーだったが、三笘薫はその価値を十分に知らしめている。
ハイライトは85分。左サイドで深い切り返しから間合いを取り直すと、一瞬でゼロから100になる加速で対面のイングランド代表DFトリッピアーを抜き、さらにニアポスト近くまで食い込んでからのプルバック。これを受けたグロスは至近距離からのシュートを外してしまったが、完全に1点ものだった。
その前の82分にも左のハーフスペース深くに走ったグロスへ絶妙のパスを通している。DFの足に引っかからないように少し浮かせた丁寧なパスだった。アディショナルタイムの93分にも左サイドを突破した(ラストパスは合わず)。
ボールを持てば何かが起こる。Jリーグで繰り返された無双の突破力はプレミアリーグでも変わらなかった。
三笘はプレシーズンマッチでも、左サイドのマジックを何度も見せていた。この独特の能力についてはグレアム・ポッター監督を筆頭に、チームメイトもファンも承知しているわけだ。しかし、三笘の登場は75分からだった。
開幕節のマンチェスター・ユナイテッド戦に続いて左ウイングバックで先発したのはベルギー代表のレアンドロ・トロサール。機敏でボールコントロールに優れ、何より運動量が豊富で守備もしっかりできる。ニューカッスル戦でも左からのカットインやパスでチャンスを作っていた。ただ、チャンスメイクに関しては三笘も負けていない。作る状況がより決定的という点で、三笘の方が印象は強いかもしれない。2人とも鋭利な刀だが、三笘の方がより深部まで届き、致命的な打撃を与える。
質は十分。しかし、世界一タフなリーグでは質だけでなく量も重要なのだ。
トロサールはこの量の部分で自らの価値を証明している。守備に穴をあけないように長いスプリントで戻り、攻撃では戻った分を駆け上がる。その間には何度も方向転換があり、相手との体のぶつかり合いもある。1人の選手がボールに触れる時間は5分間もない、残りのボールがない時のプレーが重要とはよく言われるけれども、特にプレミアではこれが死活問題になっている。三笘やトロサールのようなクオリティがない相手でも、駆け上がってきてフリーでクロスを蹴れば、それが決定機になる可能性は十分あるからだ。ハードワークにはハードワークというのが一般的な対処方法なので、質だけでは生き残れないリーグになっている。
高強度のランニングを継続しながら、ここという場面でクオリティを発揮できるかどうか。三笘はまだ15分間しかそれを示していない。質と量を兼ね備えていることを証明していけば、やがてプレー時間は伸びていくはずだ。
天才かクズか
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。