なぜ3バックが広まってきているのか
現代サッカーでは今やDF を活用することで攻撃に違いを作り出すのが当たり前。中でも昨今の注目ケースは、本職CBと定義できるDFを3人起用しつつ彼らが流動的に機能する3バックを採用しているチームが増えていることだ。攻撃の局面で3CB がどのようなメリットをもたらし、優位性を生み出しているのか。イタリアのWEB マガジン『ウルティモ・ウオモ』(2022年3月14日公開記事)がその「誘引」「侵入/占有」「固定」「支持と予防」という機能に焦点を当てる。
※『フットボリスタ第90号』より掲載
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モダンサッカーにおいて最も説得力のある仮説の一つは、もはやポジションだけで選手の能力や特徴を類推し特定することは不可能だというそれだ。例えばイタリアサッカー連盟(FIGC)の主席アナリストであるアントニオ・ガリアルディはこう言う。
「モダンサッカーにおけるポジションとは位置ではなく機能である」
この定義は、選手の能力/特徴とポジションをめぐる議論がどの地点に到達しているかをわかりやすく教えてくれる。さらに言えば、今日のピッチ上で1人の選手に求められる位置と機能は一つではない。そのポジションが本来求める位置や機能と違う場所で異なる役割を担うことは珍しくない。例えばCBとSB、あるいはセントラルMFが一時的に位置と機能の両方を入れ替えるというのは、まったくよくあることだ。
こうした状況においてはまず、自らがその瞬間にピッチ上でどんな機能を担っているのか、違う言い方をすれば、自分は味方と敵にとって何であるか/あり得るかを、ボールの位置やプレー展開との関係において認識し実行することが重要になる。ここで言う「機能」とは、単一で固定的なものではない。もしそうだとしたら「ポジション」という概念と大して変わらないことになってしまう。その選手がチームの配置/構造の中である特定の状況に置かれる頻度が他のそれより高いとしても、その状況において担う機能はボール、味方と敵、スペースとの関係次第で変わり得るからだ。
過去10年あまりの間に進んだサッカーの進化を通して、最も大きな変化を受けたポジションの一つがディフェンダーである。当初それはとりわけボールに触れる回数の増加、ポゼッションに関わる頻度の多さとして表れた。しかし今その変化をボールタッチ数やパス本数の量的な増加に集約して語るのは、あまりにも安直に過ぎる。ビルドアップの起点や前線へのロングパスの発射台となる「後方のレジスタ」としてはもちろん、それにとどまらないやり方でDFを活用することを通して、攻撃に違いを作り出しているチームの例は年々増えている。その中で注意を引くのは、ボール支配を通して試合をコントロールしようとするトップレベルのチームの間に、いわゆるCBと定義できるDFを3人起用しつつ彼らが流動的に機能する3バックを採用するケースが目立っていることだ。
その一つの理由としては、相手側においてプレッシングやポジティブトランジション(守→攻の切り替え)の質と洗練度がますます高まっている中で、能動的にボールを支配する姿勢を明確に打ち出しながら不意のボールロストにも対応できるビルドアップの構造が必要とされていることが挙げられる。もちろん、トップレベルのチームの中にはオーソドックスな4バックを維持しながら、一方のSBが内に絞る左右非対称の配置や、アンカーが2CB間に落ちる「サリーダ・ラボルピアーナ」を使うことで、ビルドアップ時の初動における優位性を担保している例もまた少なくない。しかしいずれにしても、最終ラインに3人が並ぶ配置でビルドアップを始めるというコンセプト自体は共通している。それではこの配置をどのように活用すれば、単に敵の第1プレッシャーラインに対する数的優位を保証するだけにとどまらないメリットを(しかもチーム全体の重心を無用に下げることなく)ビルドアップにもたらすことができるのだろうか。
守備的な特徴を持つプレーヤーを1人多く起用しながら、攻撃的かつ支配的な姿勢を保つためには、ピッチのより前方でも彼らを積極的に活用することが必要になる。自陣の高い位置で相手のプレッシングを誘う、あるいは敵陣まで進出して守備ブロックの攻略に参加するなど、担い得る役割は様々だ。以下、本稿では本来CBの選手を3人並べた「純粋な3バック」を採用しているチームが、攻撃の局面において彼らをどのように活用して優位性を作り出しているのかを、具体的に見ていくことにしたい。
最初にいくつかの前置きをしておこう。以下に挙げる機能のリストはすべてを網羅しているわけではない。また、ある機能は一つの局面だけではなく他の局面にも絡んでいる可能性がある。以下で使う用語は公式に認められたものではないが、筆者がこのコンセプトを伝える上で最も適していると考えるものである。
誘引(プレッシャー/注意を誘う)
Attirare (la pressione e la non pressione)
経済力やクラブとしての目標にかかわらず、ボール支配を通じてゲームを支配しようとするチームが明らかな増加傾向にある今のサッカーにおいては、それに対抗する手段としてのプレッシング、そしてボール非保持の局面における振る舞いもまた大きく進歩してきている。ハイプレスでボールを奪いに行くか、相手の前進を待ち受けるかという守備側の選択は、攻撃側の振る舞いにも対応や適応という形での影響を及ぼす。結局のところサッカーは同じピッチ上で敵味方が入り乱れるチームスポーツであり、どれだけ主体的、能動的に振る舞おうとしたところで、相手の選択による影響を受けないわけにはいかない。ビルドアップの起点が後方に下がれば下がるほどにDFは、敵が前に出てくるか待ち受けるかにかかわらず、そのプレッシャーや注意を誘い引きつける「誘引」という機能を強く担うことになる。ボール保持そのものを目的とするのでない限り、DFには自分が敵の振る舞いにどのような影響を与えているかを認知し、ボールを保持し続けることで注意を引きつけるか、スペースにボールを持ち上がることで敵がラインを崩してプレスに飛び出してくるのを誘うか、的確なプレー選択を行うことが求められる。……
Profile
ウルティモ ウオモ
ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。