8月5日に2022-23シーズン開幕を迎えるブンデスリーガ。 「地球上で最も先進的なサッカーリーグ」(アンドレアス・ハイデン/DFLデジタルスポーツCEO)を目指すドイツ1部では、ファン向けに人工知能や機械学習を活用した最新スタッツを開発・提供するなどイノベーションが促進されている一方、旧来の価値観を重んじる伝統主義者から批判の声も上がっている。その衝突について現地在住のcologne_note氏に、リーグやクラブの取り組みも紹介しながら解説してもらった。
ブンデスリーガを運営するドイツフットボールリーグ(DFL)が5月、デュッセルドルフ市内で「スポーツイノベーション2022」を開催した。同市との提携の下、フォルトゥナ・デュッセルドルフの本拠メルクール・シュピール・アレーナで行われたイベントには、17カ国から1200人以上のゲストと60以上の企業と団体が参加。ゲストの中には現役選手であるマリオ・ゲッツェ、元イングランド代表のソル・キャンベルらの姿もあった。
スポーツとメディア、そしてスタジアムにおける将来のトレンドを一足早く体験することを目的としたこのプログラムは、DFLのCEOドナータ・ホプフェンの「我われは世界で最もデジタル化の進んだサッカーリーグでありたい」という宣言で幕を開ける。「放送とコンテンツのテクノロジー」、「スポーツパフォーマンスとテクノロジー」、「ファンエクスペリエンスとスタジアム」という3つのテーマについて様々なサービスやアイデアが2日間にわたって紹介された。
放送とコンテンツのテクノロジー
「将来のスポーツでは試合中継に使用されるカメラの数が増え、カメラの性能が向上することで、考え得るすべての観点から試合を演出できるようになる」とホプフェンは言う。イベントではケルンとボルシアMGの女子チームが会場であるスタジアムで実際に試合を行い、その中でライブ・デモンストレーションとして様々なカメラシステムが紹介された。小さいドローンを用いたカメラや、ピッチの周りを高速で動く「レールカム」と呼ばれるもの、開催地から離れたハノーファーで遠隔操作されるもの、そしてスマートフォンでの視聴に合わせた縦長の9:16フォーマット用など、計90台のカメラで試合を追う。
特に話題になったのが、「エアリアル・カメラ・システム(ACS)」と呼ばれるカメラを使ったアイディアだ。スタジアムの屋根から4つのロープで吊るされてピッチの上を動き回るASC自体は何年も前から使用されている。目新しいのはその活用方法で、試合中の選手に話を聞くアイディアが紹介された。メジャーリーグでベンチにいる選手や守備位置にいる選手に行われるインタビューを参考にしているのだろう。この日はPKを蹴る前のケルンMFマンジュ・ビルデにマイク付きのカメラが向けられた。
――PKを蹴る経験は豊富ですか?
「ええ、そうですね。このチームでは新しく入ったばかりなので、まだありませんが」
この提案はイベント後に『キッカー』を中心とするサッカーメディアで報じられ、ファンから非難の声が寄せられた。結果、実戦で導入する予定はないという声明がのちにDFLから出される展開に。それでもホプフェンは批判を覚悟で、革新を追い求める姿勢を貫くつもりだ。
「多くの可能性とアイディアの中から、我われは有望なトレンドとソリューションを見極めなければなりません。テストし、実行し、改善し、そして時には破棄することもあるでしょう」
スポーツパフォーマンスとテクノロジー
……
Profile
cologne_note
ドイツ在住。日本の大学を卒業後に渡独。ケルン体育大学でスポーツ科学を学び、大学院ではゲーム分析を専攻。ケルン市内のクラブでこれまでU-10 からU-14 の年代を指導者として担当。ドイツサッカー連盟指導者B 級ライセンス保有。Twitter アカウント:@cologne_note