「セカンドキャリアに苦悩するアスリートの構造的問題と解決策」というサブタイトルに示しているように『敗北のスポーツ学』はアスリートのセカンドキャリア問題が1つのテーマになっている。奇しくも今年6月から同じくサッカー選手のセカンドキャリアをテーマにしたTVドラマ『オールドルーキー』が放送されている。同書の著者である井筒陸也は、このドラマをどう見ているのか?
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TBSの日曜劇場で夜9時から『オールドルーキー』というドラマが、絶賛放映中だ。
<現役を引退した元サッカー日本代表 セカンドキャリアへ一歩踏み出す! その舞台は「スポーツマネージメント」 愛する娘や妻が、もう一度誇りに思えるパパになるために…自らの人生を生き切ろうと模索する、すべての人におくる物語! この夏、最も笑えて泣けるヒューマンドラマ!>(TBS HP:日曜劇場 オールドルーキーより)
とのことである。僕はサッカー選手ではあったが、日本代表でもないし家族もいないし、それでも当事者からすると気が重くなる煽りである。
サッカー選手のセカンドキャリアをテーマにした作品は、地上波の連ドラという形では初めてのものように思える。それだけ世間の関心があるということか。僕はちょうど、サブタイトルに「セカンドキャリア」と銘打った書籍を刊行したばかりだったため、このドラマがバズれば、有識者枠で仕事が増えないかなあなどと、妄想をしていた。
新町は本当に不幸なのか?
この作品、偉そうなことを言うつもりはないが、そこそこリアルに描かれていると思う。
新町を演じる主演の綾野剛が多少華奢であること(まあ彼も最近はいろいろあったので疲れているのかもしれない)と、芳根京子が可愛すぎることを除いて、リアルにできている。引退を突きつけられたJリーガーが、子どもに「現役を続けてほしい」と言われてやるせなくなるあの感じ、よく僕のJリーガーの先輩たちが嘆いていたのを思い出した。
見ていくと、実はテーマが二軸あることに気づく。一つはタイトルの通り、これまでとは違う世界に飛びこんで、社会経験のないおじさんが苦労をする話。これはわかりやすくセカンドキャリア問題と呼べるであろう。もう一つは、スポーツマネージメントの話である。引退した新町は、サッカーに限らずマネジメント業をする「ビクトリー」という会社で雇われている。各回で様々なアスリートが登場し、マネジメントの観点から彼ら彼女らと関わる様が描かれる。
このドラマを見た時、一つ目のテーマにもっと振り切っても良かったのではないかと思った。新町を仮に金融の世界にぶち込んでいれば、もっと苦悩するオールドルーキーの姿が見られた。これがアスリートのセカンドキャリアの現実の、最も鮮烈な描き方であろう。今回は、スポーツマネージメントというフィールドに身を置くことで、新町の経験がなまじ通用してしまう。オールドルーキーというよりは、普通にオールドであることがプラスに働く場面があるので、その点はどう見ればいいかわからなくなってしまう。ただ、僕自身も、颯爽とJリーガーをやめておいて、サッカー界に居座っている。決断したように見えて、やはり長くいた場所の近くにいてしまうことについては、人のことをどうこう言える立場にいないことに気づく。
新町はとても不幸そうである。個人的に綾野剛は苦しそうな役より「日本で1番悪い奴ら」の時のようにイカれた役の方が似合っているが、今回は終始葛藤している。しかし、ここで問いたい。
新町はどうして不幸なのか?……
Profile
井筒 陸也
1994年2月10日生まれ。大阪府出身。関西学院大学で主将として2度の日本一を経験。卒業後は J2徳島ヴォルティスに加入。2018シーズンは選手会長を務め、キャリアハイのリーグ戦33試合に出場するが、25歳でJリーグを去る。現在は、新宿から世界一を目指すクリアソン新宿でプレーしつつ、同クラブのブランド戦略に携わる。現役Jリーガーが領域を越えるためのコミュニティ『ZISO』の発起人。