フットボリスタ特別増刊号『footballista 2022 QATAR WORLD CUP GUIDEBOOK』が本日7月11日に発売。出場32カ国確定のタイミングでどこよりも早く、全チームの有力メンバーを網羅した選手名鑑と戦術分析をお届けするカタールW杯観戦ガイドだ。その連動企画として、WEBでは各国の担当ライターがそれぞれ、本大会でブレイク期待の“ライジングスター”を紹介。第1回は日本代表がグループEで対戦する「スペイン代表」から、17歳のMFで“ルイス・エンリケの一番弟子”、ガビ(バルセロナ)の変身ぶりを伝えたい。
「ガビはスペインでは知られていない」
6月初めのUEFAネーションズリーグ、ポルトガル戦の後、ルイス・エンリケはこう言ってのけた。
「バルセロナでプレーしている時は守備的な選手だと思われているが、そんなものにはとどまらない。ボールを持った時のガビはスペインでは未知の存在なのだ」
代表監督の方がクラブ監督よりも選手のことを知っている、というのは不思議に聞こえるが、ルイス・エンリケがクーマンやシャビよりもガビのことを高く評価していたのは確かである。
だからこそ、昨年10月、バルセロナのトップチームにデビューしてわずか7試合出場後にU-21代表を飛び越して招集したばかりか、タイトルが懸かったネーションズリーグの準決勝イタリア戦、決勝フランス戦に先発させた。対面のベラッティに仕事させない17歳のデビューには世界があっと驚いた。
その後、バルセロナではペドリのケガが完治するとフランキー・デ・ヨンクと交互に使われるようになったのだが、代表では以降一度も招集外とならず、全10試合のうち8試合で先発。今や不動かと思われたペドリを抜き、カタールW杯でのインサイドMFのレギュラーの座を勝ち取ったかに見える。
守備力は凄いが、攻撃時の「違い」は見えなかった
それでも、冒頭の発言でわかる通り、ほんのちょっと前まではルイス・エンリケの寵愛ぶりに疑問の声が絶えなかった。
ガビは確かに戦える選手だ。大胆で物怖じしない性格そのままのプレーを見せる。疲れを知らないファイトの塊で、ぶつかり合いや足を入れるタックルを厭わない。インテンシティと強度という面ではすでに大人と対等以上だった。
だが、攻撃面の良さが見えなかった。ボールは失わない。失ったら奪い返せる。守備力は17歳にしては凄くて、安心して使えるのだが、攻撃時のプラスアルファが見えない。
それはペドリと併用されたり交代で起用されると、より鮮明になった。ペドリには選手の密集地帯でスペースを見つけ出し、そこに自分で侵入しパスを引き出し、リターンで周りをフリーにする、という特殊能力がある。だから、彼が入るとこう着状態に風穴が開く。ペドリだけの「違い」でありプラスアルファである。
ポゼッションサッカーでは敵陣に攻め込むのは容易だが、そこからシュートを打つのが難しい。密集での打開に求められるのは、傑出した個なのだが、それを持ち併せているようには見えなかった。17歳でA代表で悪目立ちしないことは凄いことなのだが、それ以上ではなかった。中盤の繋ぎ役ではあったが、2列目の打開役ではなかった。これはバルセロナでも課題とされていたことだ。
A代表は本来、若手の育成の場ではない。
ベストの選手をチョイスしてベストのチームを作る場である。攻守の総合力で、同僚のコケ(アトレティコ・マドリー)やソレール(バレンシア)、代表から声がかからないカナーレス(ベティス)の方が上ではないかと私も思っていたし、多くのジャーナリストも同意見だった。ルイス・エンリケが指摘する通り、ボールを持っている時には未知の存在だったのだ。
シャビ+イニエスタ+ヘスス・ナバス
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。