チーム分析から紐解くポジショナルプレー#3
現代サッカーの主流な戦術的アプローチの1つとなっているポジショナルプレー。ただ、採用しているチームであっても実際にピッチ上で実践しているサッカーには差異があり、その実像を理解するのはそう簡単ではない。そんなポジショナルプレーの実像を、具体的なチームの分析を通してらいかーると氏が紐解いていく。第3回は、『月刊フットボリスタ第90号』に掲載したチェルシーの分析をWEBにも掲載する。
2021-22終盤のチェルシーは[4-3-3]にチャレンジする機会が多くなっていた。時には[3-5-2]や[4-2-2-2]にもチャレンジ。チェルシーにとって代名詞ともなっていた、5レーン型の[3-4-3]に取り組む回数が減っている理由は、選手の状況に左右されている側面は否定できないだろう。
例えば、ウイングバック(ベン・チルウェルとリース・ジェイムス)の離脱により大外レーンでの破壊力が減った[3-4-3]では、相手のゴールに迫ることができないかもしれない。よって、大外レーンで質的優位を相手に押し付けることができる選手の起用、もしくはSBの攻撃参加によって、サイドからの破壊力を増強するために[4-3-3]を採用することは理にかなっている。中央3レーンでのプレーをメインとしていた前線トリオの中でも、ジエクは右大外レーンからのプレーで存在感を増している。選手の出場時間の調整、異なる役割での戦術の幅など、[4-3-3]を採用するメリットが、チェルシーにとって大きな財産になることは間違いない。
そうして試合を観察していく中で、[3-4-3]と[4-3-3]に存在する共通点と、配置の変化によってより強調する部分がだんだんはっきりしてきた。
[3-4-3]と[4-3-3]の共通点:ひし形を用いたボール前進
[3-4-3]と[4-3-3]に共通する部分は、ひし形の形成と再構築によってボールを前進させていく仕組みだ。ゴールキックを蹴っ飛ばすことの少ないチェルシーは、ショートパスでボールを繋ぐ姿勢を最初に見せることが圧倒的に多い。自陣深くでもボールを繋ぐことを怖がらず、ボールを基準にひし形を形成していく。
[3-4-3]の場合、前進の出発点になる選手は3バックの両脇の選手たちだ。彼らを中心に自然とひし形が形成されることもあって、[3-4-3]のチェルシーは静的な要素に満ちあふれている。両脇のCBを基準にひし形を当てはめていくと、そこからあぶれるポジションが2つある。3バックと3トップの真ん中だ。ひし形と隣り合うポジションになっている彼らはボール保持の逃げ場、ひし形の再構築に関わる重要な役目を担っている。特にトップの選手は裏抜け要員やロングボールの的として、自陣に引き込んだ相手を分断する役割をまっとうすることが求められる。
また、ひし形と隣り合うポジションとしてセントラルハーフも重要な役割を担う。ウイングバックにボールが入った時に自然と平行サポートが構成されるひし形に対して、平行サポートをする選手がその位置からいなくなった時に現れる選手がもう一方のセントラルハーフだった。いわゆる平行サポートの2段構えである。基本的にひし形を構成している選手と隣り合うレーンにいる選手は、ひし形の再構築要員と言っていいだろう。
[4-3-3]の場合、前進の出発点になる選手は2枚のCBだ。彼らを中心にひし形を当てはめていくと、2つのひし形を一手に担っているポジションが存在する。アンカーのジョルジーニョである。[4-3-3]のアンカーで2つのひし形を担う役割を課せられている選手はほぼ彼となっている。なお、[3-4-3]で装備されていた平行サポートは、ひし形に加わってないインサイドハーフが担うことが多い。
[4-3-3]でひし形からあふれるポジションは3トップだ。彼らはひし形の再構築に関わりながらも、ロングボールや大外レーンでボールを受けることで相手をひっくり返す要員として控えている。3バックの真ん中がいなくなり、ボール保持の逃げ場としてGKの出番が増えると同時に前線に3トップが浮いていることもあって、[4-3-3]の場合は心なしか速攻の雰囲気が強くなる。
配置間で流動する[3-4-3]、大外レーンを攻略する[4-3-3]
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。