南野拓実の加入が決まったフランスのモナコと、上田綺世の獲得を発表したベルギーのセルクル・ブルージュ。一見するとまったく関係がないように見える2クラブが、同じオーナーが経営し提携関係にあることをご存じだろうか。近年隆盛するマルチクラブ・オーナーシップ(MCO)の一例である両クラブの提携について、小川由紀子さんがレポートした『フットボリスタ第87号』掲載記事を一部修正し公開する。
ASモナコは2017年5月、セルクル・ブルージュの筆頭株主となり、創立1899年という長い歴史を誇るこのベルギーのクラブを傘下に収めた。
両者のコラボレーションはそれより4年前の2013年から画策されていて、当時のセルクルの幹部がモナコを訪問して会談を行い、同年6月にはクラブの公式サイトで「選手の提供を中心にASモナコとの協力関係を進めていく」という内容のリリースを発表している。具体的には、セルクルで弱体化しているポジションにモナコから選手をレンタルして補う、といった提携だ。
2つのクラブで共闘するメリット
2001年から10年までの約9年間セルクルの運営に携わったフィリップス・ドンツが、その後2012年からモナコのゼネラルマネジャーに就任したこともあり、両者の間にはすでにパイプがあった。そしてセルクルも、以前からポルトガルのスポルティングやイタリアのユベントスと提携関係を結んでいた。ビッグクラブの若手選手に実戦の機会を与える場になるのと同時に、彼らのノウハウを学ぶ、というのはセルクルのクラブ方針でもあったのだ。
ところが2014-15シーズンの降格で翌季から2部リーグに転落すると、セルクルの財政状況は以前にも増して厳しくなった。経済面での救済策を模索していたところで、提携関係にあったモナコが買収することで話がまとまった。
発表の際、当時のモナコ副会長バディム・ワシリエフは、「他のリーグのクラブと手を組むこともできたが、そのレベルの高さとトレーニングセンターの質の高さからベルギーを選んだ」とコメントしている。……
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。