実は前半戦を終えた時点で、アルビレックス新潟が積み上げた勝ち点は昨シーズンとほとんど変わらない。2021年は41。2022年は42。今シーズンがわずかに1点上回っているだけだ。だが、選手たちの勝利に対する執念は、明らかに色濃くなっているように見える。では、“リキさん”こと松橋力蔵監督に率いられたアルビレックスは、どんな部分が変わってきているのか。ここはおなじみの静かなる熱血漢・野本桂子に、数字では測れないディテールを紐解いてもらおう。
誰が出ても変わらない競争力で前半戦を首位ターン
松橋力蔵監督とともに、2022シーズンをスタートしたアルビレックス新潟。J2降格以降、5度目のチャレンジとなるJ1昇格に向けて、歩みを進めている。
今季はキャンプ中の新型コロナウイルス集団感染により、チーム活動が10日間中断するアクシデントからスタート。選手のコンディションがそろうまでに時間を要し、開幕から4試合は勝利なしと苦しんだ。だが、それ以降は大崩れすることなく勝ち点を積み上げ、第23節終了時点の現在は首位・横浜FCと勝ち点1差で2位につけている(6月26日現在)。
その勝ち点は45。戦績は13勝6分4敗で、得点数39はリーグ3位、失点数20は3位タイ。得失点差+19は群を抜いている。特にホームで強く、ここまで10勝1分と負けなし。1試合平均1万2000人を上回るホームサポーターの後押しを受けながら、第22節のブラウブリッツ秋田戦を制したことで、ホーム10連勝を達成。2013年の9連勝を上回る、クラブ最長記録を更新した。
戦いのベースは、アルベル前監督(現・FC東京)が、2シーズンかけて新潟に植え付けた「ボールを愛するサッカー」。今季から指揮を執る松橋監督は「J1を目指すには、勝ちをもっと貪欲に求めなければならない」というシンプルな逆算と、昨季の課題も踏まえた上で「コレクティブ(組織的)に、よりダイナミックにゴール方向へ向かう」「相手の隙を突く」という姿勢をプラスした。
「すべての判断は、勝つためにある」と、主将を務めて3季目の堀米悠斗は変化を語る。主導権を握るためにボールを保持するスタイルは変わらないが、「うまく相手の背後を突くために、細かく手数をかけていく。前からプレスに来るチームに対しても、あわてずにポゼッションしながら、もう1つ奥を見ながら、攻撃をスピードアップするタイミングを共有できている」。これまで一度下げて組み立て直していたところでも、下げると見せかけて体の向きで相手を欺き、意表を突くパスを出すなどディテールの部分でも変化が見える。
たとえば第10節・ファジアーノ岡山戦の先制点は、堀米の縦パスを島田譲がフリックし、相手DFラインの背後へ送ると「リキさんから、一歩で背後を取れと言われている」という本間至恩が絶好のタイミングで抜け出し、上げたクロスに3人が飛び込んで谷口海斗がゴール。ラインを越えた瞬間のスピードアップと迫力は昨季以上だ。
また試合ごとにスタメンが入れ替わる中で、誰が出ても結果が出せるようになったことも昨季からの変化だ。ここまで出場した26人のうち、得点者は14人。谷口の本能的なボレーや松田詠太郎のスピードに乗った仕掛け、伊藤涼太郎の中央突破に、デザインされたセットプレーから田上大地のどんぴしゃヘッド。様々な個性を生かし合い、つながり合う掛け合わせの中で、昨季以上に多彩な得点場面が見られており、結果が出ることで、お互いにライバル心が生まれ、高めあう好循環も生まれている。
“リキさん”が求める絶対的なクオリティ
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Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。24年4月からクラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。