5 レーンすべてを使うのではなく、プレーエリアを限定する[ 密集型]のポジショナルプレーにトライしているのがナーゲルスマンのバイエルンだ。ドイツメディアに「狭いポジショナルプレー」と命名されたそのアプローチの狙いとは? 新世代監督のサッカー観に迫る新著『ナーゲルスマン流52 の原則』が6月30日に発売となる木崎伸也さんに掘り下げてもらう。
※『フットボリスタ第90号』より掲載
かつてヨハン・クライフは、著書『サッカー論』(二見書房)でこう語った。
「ウイングのポジショナルプレーには、基本ルールが2つある。チームがボールを持っている時はなるべく深い位置でプレーするだけでなく、できるだけサイドラインに近い位置でプレーすることが重要だ。こうすることでピッチを広く使うことができ、他の選手のためにスペースを作ることができる」
ピッチをできるだけ広く使うことができ――。今や世界中のリーグで常識となっているセオリーだろう。
しかし、バイエルンを率いるユリアン・ナーゲルスマンの考えは違う。アタッキングのフェーズにおいて、ウイングが中へ入る「最小限の幅」(Minimalen Breite)の原則を採用している。
昨年10月、ナーゲルスマンは英『タイムズ』紙で秘密の一端を明かした。
「世界中の多くの監督は、離れた距離でのポゼッションを好む。それに対して私は、短い距離でのプレーを好む。なぜならボールを速く動かすことができ、なおかつゲーゲンプレッシング(即時奪回のプレス)をかけやすいからだ。それは私にとって、最も重要な戦術のトピックなんだ」
選手が中央に集まってプレーする。ドイツメディア『ntv』はこれを「狭いポジショナルプレー」と名付けた。
ナーゲルスマンのサッカーはピッチを移動しながら構造が変わる「エリア依存の可変システム」となっている。そのため、攻撃の開始局面から最終局面までを順番に見ていこう。
「相手を惑わす効果がある」自陣ビルドアップでの“逆とっくり型”
まず、自陣深くからビルドアップが始まる段階ではナーゲルスマンもピッチを広く使おうとする。通常のやり方と異なるのは「低い位置ではサイドライン側に誰も立たない」(=高い位置のみでサイドライン側に立つ)ということだ。
攻撃時の並びを、前から1列目、2列目、3列目、4列目と表記しよう。ナーゲルスマンがデザインする構造は、2列目にのみワイドアタッカーがおり、3列目と4列目は全員が中央にいるという偏った配置である。
ナーゲルスマンは『DAZN』の番組『デコーデット』で、「多くは語れないが」と前置きした上でこう語った。
「ビルドアップにはいろいろなアプローチの仕方があり、ある監督はフラットな4バックを横に広げて、相手のMFラインを引き伸ばそうとする。私はそうではなく、相手のDFラインを広げたいんだ。そうすれば相手がDFラインを下げて低く構えていても、ラスト3分の1でスペースを作れる」……
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。