2022年6月20日、新たにイーグル・フットボール・ホールディングスが筆頭株主となることを発表したリヨン。同社はイングランドのクリスタル・パレスやブラジルのボタフォゴ、ベルギーのRWDモレンベークのオーナーも務めており、マルチクラブ・オーナーシップ(MCO)傘下に収まることとなる。
そのリヨンが、欧州随一の強豪として圧倒的な実績と資金力を誇る女子サッカー部門でいち早くMCO化を進めていたことをご存じだろうか。2020年に、ビジネス面でも最先端を行く女子サッカー先進国アメリカに進出し、「OL」を冠したクラブをワシントン州タコマに誕生させているのだ。男子チームに劣らぬ熱量を女子チームに傾けるオラス会長の野望にスポットライトを当てる。
※『フットボリスタ第87号』掲載記事を一部修正し公開
女子サッカーのクラブチームで、世界最高峰に立つと言っても過言ではないオランピック・リヨネ・フェミナン(リヨン女子)。2021-22の女子チャンピオンズリーグでは準々決勝でPSGに屈した前シーズンの雪辱を果たし、決勝で国内では無敵を誇ったバルセロナ・フェメニを下してここ8年で7度目の優勝。国内リーグでもやはり2020-21はPSGに奪われたタイトルを奪還して、2006-07からの16シーズンで15度の優勝と絶対的な王座に君臨してきた。アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』紙は、2010年からの10年間において世界の男女合わせた全チームスポーツの中でタイトル獲得数などから試算した“世界最強軍団”は、リヨンの女子チームであると発表している。
リヨン女子をそこまで育て上げた立役者は、ジャン・ミシェル・オラス会長だ。
2004年、リヨン市にあった女子クラブ、FCリヨンの経営が立ち行かなくなると、市長や街の有力者はOLグループ会長の彼に救いを求めた。それが、オラス会長が女子サッカーに携わることになったきっかけだ。会長の側近に聞いた話では、今では欧州カップ戦などで男子チームの試合と日程が重なった場合には、プライベートジェットを飛ばしてまず女子チームの応援に足を運び、それから男子の方へはしごするほど注力しているという。
女子サッカーに対する彼の意識を変えた、ある出来事があった。リヨンがCLに出始めたばかりの頃、試合前半を終えてロッカールームに戻ってきた選手たちのユニフォームは汗でびしょ濡れで、とても後半そのまま着用できる状態ではなかった。しかし女子チームの備品にはユニフォームの着替え分は用意されておらず、スタッフが総出でハーフタイムの間に手でシャツを絞って乾かす、という涙ぐましい作業を行わなくてはならなかったそうだ。
それを知ったオラス会長は、結果を求めるにはまず環境整備からだと実感し、女子チームの予算を一から見直したのだった。
2019年フランスW杯で青写真が現実的に
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。