カタールW杯で日本代表と同組になったドイツ代表。昨年のEURO2020後に就任したハンジ・フリック監督の下で復調を遂げているように映る彼らのチーム作りは順調に進んでいるのか。6月にホームで行われたイングランド戦(1-1)、イタリア戦(5-2)を現地取材した中野吉之伴さんにレポートしてもらう。
6月の代表シリーズを1勝3分けという成績で終えたドイツ代表。イングランド、イタリア、ハンガリーと同組のUEFAネーションズリーグでは4戦それぞれに課題と収穫が見られたので、そのあたりをまとめてみたいと思う。
「今どこに自分たちがいるのか」
と、その前に。
5月下旬にフライブルクで行われた国際コーチ会議に、ドイツ代表を率いるハンジ・フリック監督がビデオ参加した。
国際コーチ会議とは例年夏に3日間開催されるドイツサッカー協会公認A級、プロコーチライセンス(S級)保持者のみ参加可能のカンファレンスだ。2年間、コロナ禍の影響で中止・延期となっていたが今年は無事に開催。開催地は毎回違うので毎年次はどこで開催されるかというのも楽しみの一つだが、今回は我が町フライブルク。旅行気分が味わえないのはちょっと残念だが、自宅から自転車で10分で通えるというのはなにかと都合が抜群によかったのは間違いない。
その国際コーチ会議の中で、ドイツ代表はW杯へ向けてどのように準備しようとしているのかと質問を受けたフリックは次のように答えていた。
「ネーションズリーグではEURO2020で決勝に残った2か国との試合がある。イタリアとイングランドだ。もちろんEUROやW杯とは別の雰囲気だが、こうした強豪相手に対抗するためのサッカーを選ぶのではなく、《今どこに自分たちがいるのか》を見ることが重要だと思っている。選手たちはここ2年間、タフなプログラムを戦い抜いてきている。シーズン後に行われることもあり、簡単な試合ではない。だが我われはこれを挑戦として受け止め、トップチーム相手に何ができるかを見てどこに自分たちはいるのか、改善点がどこにあるのかを明らかにすることが重要になる」
前任のヨアヒム・レーフ監督はW杯やEUROから逆算した選手の負荷調整を非常に気にかけていた指揮官だったので、過密日程で負傷者が出ないように考慮していたのが印象的だった。コロナ禍でEUROに向けて準備しなければならなかったというのは突発的で、例外的な状況だったのは確か。本大会が開催される時期に主力が疲労困憊となっていたらどうしようもない。ロシアW杯でフィジカル面だけではなくメンタル的なコンディショニングに失敗した過去もあることから、そのあたりを苦慮するあまり時に神経質なまでに大幅なローテーションを組むことが多かった。
選手を大事にしようという狙いはとても重要だが、チーム作りという観点からすると困難な道を選んでしまったのだなと、今振り返ると指摘できる。一度は代表に呼ばないと宣言したトーマス・ミュラーとマッツ・フンメルスを本大会直前に呼び戻すことになったが、そのタイミングからではチーム作りがうまくいくはずもない。結果論ではあるかもしれないが、《世代交代》《将来のための》というノルマが自分で思っていた以上に枷になってしまっていたのかもしれない。
その点、2021年8月に新監督に就任したフリックが「ドイツ代表とはどういうところか」というのをあらためて整理するところからスタートしたのは理にかなっている。……
Profile
中野 吉之伴
1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。