平畠啓史が語るJ3の魅力。「メインスタンドから見える風景」
J3リーグは、奥が深い。プロ契約の選手と、そうではない選手が混在し、ライセンスの問題もあって、すべてのクラブがJ2昇格だけを目指しているわけではない。だが、その土地が織りなす“地元感”がJリーグの中で最も滲み出ているのは、間違いなくこのカテゴリーだろう。全国津々浦々に足を運び、Jリーグの持つ“リアル感”を体感し続けている平畠啓史は、このJ3という一言では言い表せないようなリーグを、果たしてどのように楽しんでいるのだろうか。
「去年今年ぐらいはだいぶん自分の中にJ3が入ってきた」
――今回はJ3リーグの楽しみ方や魅力を平畠さんに教えていただきたいと思っているのですが、まず「J3リーグとは?」と聞かれたら、どう答えますか?
「『J3リーグとは?』かあ。なんかねえ、俺は凄いリアル感があるなっていう。ちょっと剝き出しな感じっていうのかな。それは凄く感じるかな。地域との繋がりもよりリアルというか、よく地域密着とか言うけど、本当にそれに近い。それこそ福島ユナイテッドFCの選手が農業部を作って、福島の人と一緒に果物を栽培して、販売したりとか、そういう意味でも本当の地元の人との近さがあるよね。ヴァンラーレ八戸の選手が練習が終わった後に、八戸の地元の人が作ってくれるゴハンを食べてるとか、全員が全員プロ選手じゃないけど、なんかプロ選手という感じよりも、本当に地元のクラブでやってくれてる選手という感じ。
この前、愛媛に行った時も、愛媛FCのボランティアの人に声をかけられて、喋っていたら車が通って、それを今はジュニアユースを見ている河原(和寿)さんが運転してたわけ。みんなが『あ、カワちゃんだ!』って言うっていう近さね(笑)。応援している人から見たら、『オレらの仲間がやってくれてる』みたいなところがあるかもしれないかな。そこがJ3の面白いところで、そこのリアルさで言うと、ちょっと遠いねんけど、実はこれがJ1に繋がっているという夢みたいなところがあって、本当に非現実的みたいなところと実は繋がっているのが、なんか面白いなあって」
――より生活に根差している、みたいなところがあるんですかね?
「あるある。なんか凄くリアル感があるなあっていうのはあるかな」
――J3と平畠さんの接点というと実況というのはすぐに思い浮かびますが、ご自身はJ3とどう関わっている感覚ですか?
「うーん、なんかねえ、もちろん仕事やから見るというのはあるんやけど、去年今年ぐらいはだいぶん自分の中に入ってきたなという(笑)。やっぱり気になるし、普段でも『あのチームどうなってるかな?』『あの選手のケガどうやったかな?』とか、凄く自分の中でもリアルになっているというか。試合数も見るようになってるし、『あのチーム、もう2試合ぐらい見れてないな』ってなったら、こっちもソワソワしてくるというか、『なんか変わってるんちゃうか』と。もちろん見れなかったゲームはハイライトで見たりするけど、2試合ぐらい見れてなかったら心配で見るというか(笑)、だいぶんリアルかな」
――より自分の中にJ3が入ってくるきっかけが何かあったんですか?
「まあ、きっかけということもないけど、そうやって試合を見たりとか、現場で選手に会ったりとか、お客さんの声を聞いたりとかしてるうちに、やっぱりだんだん気になってくるというかね。たとえばJ1を見に行って、いわゆる『サッカーの応援ってこうでしょ』みたいな典型的な形ってあるやん。今はコロナでアレやけど、みんなでチャントを歌って、『おい!オマエら行くぞ!』『ワ~』みたいなのもあるけど、J3になるとちょっとまた違ったりするのね。たとえばY.S.C.C.横浜のコールリーダーの人って、『これから試合なので、良かったら皆さんも一緒に歌って下さいね』とか、『ああ、そういうやり方もあるんか』って。サッカーの応援って『いやいや、これもあるぞ』と。
たとえばヴァンラーレのコールリーダーは、ちょっと前まで女の人がやってはったのよ。そういうのを見たら『そうか。別に女の人がやってもええやん』と。プライフーズスタジアムに行った時に、若いお兄ちゃんがブワーッと走ってきて、18歳か19歳って言ってたかな。『あの、以前写真撮ってもらったんです』って声かけられたの。『そうですか。ありがとうございます』って言ったら、『実は僕、今コールリーダーやってるんですよ』って。『ホント。あれ、ちょっと待って。コールリーダーって女の人やってなかった?』って聞いたら、その女の人が“寿退社”やないけど、結婚することになって、そこの席が空いて『僕がやることになったんです』言うて。『普段学生してるの?』って聞いたら、『いえ、普段はそこのショッピングセンターで働いてます!』って。『なんかええなあ』ってなるやん。そこのリアル感みたいなものが好きかな」
――そのコールリーダーの交代話、いいですねえ。
「ええやろ。グッとくるやん。まあ、“寿退社”やないけど、“寿引退”というか。なんか気になってたのよ。『女の人がトラメガ持って喋ってんな』みたいな感じで思ってたら、やっぱりそれはそうだったけど、『いや、結婚して』って。『ええ話やなあ』って思うよね」
――おそらくはヴァンラーレのコールリーダーが女性かどうかって気付かない人もいるはずじゃないですか。たぶんJ3ってキャッチする“アンテナ”を張っていると、よりいろいろな要素が引っかかってくるのかなと思うんですね。平畠さんが書かれている文章を拝読すると、そういうことをキャッチすることに長けているし、好きな人なのかなとも思うんですけど、J3だとそれがより引っかかってくるところもありますか?
「試合前のアップの時にふと気づいたのが、J3の全クラブじゃないけど、チームによってはボールがドロドロやねん。これはJ1では考えられへんことやん。綺麗な新しいボールでアップするんやけど、どう見ても練習場でいっつも使っているボールで、試合前にアップをしているというのがね。J1もJ2もJ3もJリーグで、じゃあ『Jリーグの人ってスターなんでしょ』って知らない人は思っているかもしれんけど、そこのJ1とJ3のリアル感の違いね。オレがそこで『リアルやな』と思ったのは、練習場とかすべてをひっくるめて試合に出るという、そういうのがボールを見た時に『ああ、そうか。これって練習で使っているボールやな』って。
それこそ自分の本にも書いたことがあるけど、Y.S.C.C.横浜で樋口さん(樋口靖洋・現ヴィアティン三重監督)が監督をやっている時に、練習場に行ったら、練習が終わった後に樋口さんがずっとボールを探しているというね。『ボール1個ないのよ』って言って、ずっと探しているという。たぶんそれはJ1とかだとないことやん。それがJFLでもない、学生でもない、Jリーグという中やけど、3つ目のカテゴリーのところにそういう環境のチームもあるという。でも、『そこを勝っていったらJ1に行けますよ』という、そこが面白いなってオレは思ってる」
――またそのボールの話はグッと来ますね。
「1個でもボール、大事やんか。だから、もうずっと探しているという。何なら選手とかももう上がろうとしてんのに、まだ監督が探してるみたいな(笑)。それこそ樋口さんが監督をやってる時やったら、もう走るトレーニングも全部樋口さんがやるとかね。コーチングスタッフの数がちゃうから、『フィジカルコーチやからオマエ頼むで』じゃなくて、監督が全部やると。『あと15秒』『あと10秒』とかって言うてるっていうのも、なんかそこはJ1とかとまた違う面白さがあるかな。
そこの大変さが『かわいそう』じゃなくてね。その見方は全然違って、『大変やなあ』『かわいそうやなあ』とかじゃなくて、それはそれで現実であって、そこの中で何とかしようとする選手とかクラブとか監督とかっていう、その姿勢みたいなんがやっぱり面白いなあっていうか、心に響くことって結構あるなあっていうのは感じるかな」
バックスタンドの向こうに広がる生活の“リアル感”
――J3は比較的地方にクラブが分散していますよね。東北にも、四国にも、中国地方にも九州にもあって、もちろんJ1やJ2もそうなんですけど、より地方色が強いイメージもありますが、それが会場に行くワクワク感、アウェイに行く楽しさを増しているところもありますか?……
Profile
土屋 雅史
1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!