2019年に「地域課題解決型総合クラブ」として壮大なビジョンを発表した福山シティは順調に階段を駆け上がり、今季5部リーグ相当の「中国地域リーグ」に参戦している。そんな新興クラブが、6月14日に地域への経済効果を測定した報告会を行った。設立当時からクラブを追い続けるジェイ氏がその模様をレポートする。
先日、あるクラブから変わったプレスリリースがあった。
タイトルが少し長いが、『福山シティフットボールクラブがもたらす経済効果の試算―2021年実績およびJFL昇格段階の予測―に関する報告会』と銘打たれたそれは、なかなかに興味深い響きがあった。
14日の平日、会場は福山市立大学にて行われたが、オンライン配信もしてくれるとのことで、遠く離れたさいたまから立ち合わせていただいた。会見の要旨と資料はクラブの公式HPでも発表されているが、内容を把握するには少し説明が必要だと思われるので、その解説も交えてレポートさせていただきたい。
そもそも「スポーツがもたらす経済効果」って何?
経済効果というと、「巨人が優勝した経済効果は〇〇億円」などという報道がなされるのが、かつての日本の秋の風物詩だった。しかしながら、巨人が最後に日本シリーズを制したのは2012年。これほど巨人が日本一から遠ざかった例はなく(最長が81年と89年の8年ぶり優勝)、ジャイアンツファンの筆者は忸怩たる思いで日々を過ごしている。
話が逸れた。そもそも、スポーツがもたらす経済効果とは何か。
参考にした論文によると、『スポーツイベント開催にかかる支出額の総計(直接効果)と、支出額をもとにした産業連関分析による生産誘発額(経済波及効果)を合計した数字で測定されるもの』という、1つの定義がある。
今回の福山シティFCによる発表も、「直接効果」と「間接効果」を計測したものだ。その説明と詳細は後に回すとして、これまでもスポーツが、Jリーグがもたらす経済効果は度々試算されてきた。
報告会の中でも触れられた、松本山雅FCがJ1に昇格したことによる経済効果がうん十億円というのは有名なところだろう。Jリーグという華やかな舞台でクラブが活躍することで、地域を活性化する。スポーツには夢がある。
地域への「直接効果」はどのくらい?
ただ、その前段階、アマチュアの段階で詳細に踏み込んだ例はこれまでなかったのではないか。しかも調査が行われたのは2021年、福山シティFCは全国リーグでも地域リーグでもない、県リーグを戦っている。
サッカーに関わるものは夢の代償を払っているが、カテゴリが下になるほど実利的な発想は薄れ、投資も支援も『お気持ち』がメインとなる。経済効果を満足に享受できるのは遠い先の話になりがちで、これを明らかにしていくのは諸刃の剣でもあるだろう。
では実際に、報告会の内容はどういったものだったか。まずもって、今回の検証・計測は福山市立大学の協力のもとに行われた。福山シティFCと福山市立大学は昨年5月に包括連携協定を結んでおり、その連携項目は以下となっている。
(1)地域課題の解決に関すること
(2)人材育成に関すること
(3)教育、研究に関すること
(4)地域スポーツの振興に関すること
(5)その他、目的を達成するために必要と認める事項
経済効果の測定もその一環で行われ、都市経営学部・長谷川良二教授のもと、7名の学生たちが参加して実施された。
まず経済効果の内訳として、スライドにもある通りどの研究でも「直接効果」と、そこから波及する「間接効果」によって計測されている。長谷川教授の説明を例に挙げると、あるレストランの売り上げを直接効果とした場合、レストランからのパン屋への発注が第1次波及効果、パン屋が小麦粉を発注するのが第2次波及効果ということになる。
サッカークラブの場合はクラブの収入と、クラブ、選手スタッフの消費がまず直接効果となり、そこからの波及が間接効果となる。サポーターや観客の立場からすると、チケットやグッズを購入することが直接効果となり、交通費や食事代、アウェイサポーターの宿泊費や観光などが間接効果に当たる。ここで大事なことは過去の例に倣って、むしろ過去の例よりも範囲を絞り込み、効果範囲が福山市内限定となっていることだ。……
Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。