6月9日、ディボック・オリジのリバプール退団が正式発表された。前所属のリール、ボルフスブルクへの期限付き移籍を挟み、在籍6年間で宿敵エバートンとのマージーサイドダービー、18-19CLの準決勝と決勝をはじめとする大舞台で数々の劇的弾を沈めてきた功労者との別れに寄せて、リバプールファンのYuki Ohto Puro氏にコラムを綴ってもらった。
いつでも恋物語の始まりはドラマティックで、エンディングは驚くほど呆気ないものだが、今回も例外ではなかった。激動の21−22シーズン、プレミアリーグ最終節を目前に控えた2022年5月19日。長年にわたってリバプール、とりわけユルゲン・クロップの治世を支えた1人の選手の名が紙面に踊った。「ディボック・オリジ、ACミラン移籍で個人合意」。 その報を受けたクロップは試合前記者会見で事実と認め、こう語りだした。
「私にとって、彼はいつでもリバプールの伝説だ。彼との仕事は喜びだった。今まで指揮した選手の中で最も重要な選手の一人だ。彼が去る瞬間は寂しいものになるだろうな。間違いなく、リバプールのレジェンドだよ」
175試合出場。41ゴール。14アシスト。センターフォワードを主戦場とするオリジがリバプールに残した記録は一見すると平凡、もしくはそれ以下のものに見えるかもしれない。だが、彼が残した記憶は決して平凡な選手ではなかったと語る。今日は記録よりも記憶に残る男、ディボック・オリジの思い出を語ろう。
マージーサイドダービーでの因縁と逆襲
決して忘れられない光景がある。リバプールの選手たち、そしてクロップがKOPスタンドの前に並んでファンに挨拶している。2015年12月13日。対戦相手はウェストブロミッチ。中堅クラブを率い、フィジカルバトルと乱れぬ規律で男臭い肝の座ったチームを作り上げることに定評のあったトニー・ピューリス監督がピッチサイドに仁王立ちする。リバプールが華々しく試合に勝ったわけではない。アディショナルタイムのゴールで同点に追いつき、忍耐強く勝ち点を拾った。そんな試合だった。
クロップは試合終了後、選手を率いてファンの前で結果を祝福した。試合後のリーグテーブルは9位。周囲はそれを笑った。だが、同年10月にブレンダン・ロジャーズの失敗を受けシーズン半ばにリバプール監督の座に就いたドイツ人は違った考えを持っていた。
「私はファンに、自分たちの重要性を知ってほしかった。フットボールの世界ではファンが重要だと常に言われているよね。だけどあらためてそれを伝えたかったんだ。私達はファンがいなければ最高のレベルではプレーできないことを知っている。それを理解する必要がある」
96分に同点ゴールを決めたのは、オリジだった。79分、ビハインドの状況下で攻撃に厚みを加えるためにデヤン・ロブレンに代えて投入された彼は、リバプールでのキャリアを通じて初めての印象深いゴールを決めた。そしてこのゴールは、彼自身のリバプールでの在り方、そしてリバプールというクラブそのものの在り方を規定するものになったかもしれない。
……
Profile
Yuki Ohto Puro
サミ・ヒーピアさんを偏愛する一人のフットボールラバー。好きなものは他人の財布で食べる焼肉。週末は主にマージーサイドの赤い方を応援しているが、時折日立台にも出没する。将来の夢はNHK「映像の世紀」シリーズへの出演。