CL制覇の陰の立役者。右サイドを制圧した不屈の男、カルバハルのいぶし銀の輝き
史上最多となる14回目のCL制覇を成し遂げたレアル・マドリー。決勝のリバプール戦では23本のシュートを浴びながら無失点で防いだGKクルトワのパフォーマンスが目立ったが、もう一人いぶし銀の輝きを放っていた選手がいる。右SBのダニエル・カルバハルだ。5月31日に『TACTICAL FRONTIER 進化型サッカー評論』を上梓した結城康平氏に、右サイドを制圧したスペイン代表DFのプレーを解説してもらおう。
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ユルゲン・クロップは、「モハメド・サラーやサディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ……彼らがこれまでのキャリアで経験してきた逆境は私とは比べ物にならない。諦めてしまっても不思議ではない絶望を覆し、彼らは夢を追ってきた」と語る。最後まで勝負を捨てない「鋼のような精神力」を武器に、奇跡的な勝利を繰り返してきたリバプールの主軸たちは、プレーヤーとしてのキャリアで何度も挫折を経験してきた。その苦境から脱してきたメンタルがチームに伝播し、リバプールはクロップ好みの「ハードロック」を奏でるようになったのかもしれない。
そのリバプールがCL決勝の舞台で対峙したレアル・マドリーにも、不屈の魂を持つSBがいる。右SBのダニエル・カルバハルだ。
クラブ生え抜きとしても知られる30歳は、ケガに苦しめられた選手でもある。ジョゼ・モウリーニョ時代にはレバークーゼンへのローンも経験した。本人も「ファーストチームに加わる自信はあったが、モウリーニョは当時の僕を戦力には計算してくれなかった」と回顧しているように、悔しい気持ちをドイツの地で爆発させた男はレアル・マドリーへの帰還に成功する。
2019年にはコパ・デルレイ、リーガ、CLをわずか10日で失うショッキングな出来事もあった。責任感の強いカルバハルは当時、「キャリア最低の経験だ。すべてを失い、黄金時代は終わったと言われている。プロフェッショナルとして立ち、隠れずに失敗を認めなければならない」と苦しい胸の内を明かしていた。その後、21-22シーズンにCLのタイトルを奪還したのは誰もが知る通りだ。
生え抜き選手であっても他国のスターと熾烈な競争にさらされるのが「白い巨人」の宿命。その右サイドに定着した男の実力を疑う者は少ない。
しかし一方で、キャリアの中で常にカルバハルを苦しめてきたのが「ケガ」だ。年齢的にはベテランに近づいていることもあり、筋肉系のトラブルは天敵となっている。特に20-21シーズンは190日という長期間、トップチームでの出場から遠ざかってしまった。2021年冬には食生活の改善にも取り組み、「毎日ブロッコリーを食べるようになった」とコメントしている。スプリントを繰り返さなければならないSBというポジションは筋肉への負荷も大きく、ケガを恐れながらプレーしていることで「彼本来の積極性とダイナミズムを失ってしまった」と指摘していた識者も少なくなかった。
それでも、不屈の男がCLの舞台で披露したパフォーマンスは別格だった。準決勝のマンチェスター・シティ戦、決勝のリバプール戦と、見事なプレーでプレミア2強を苦しめたのだ。
シティ戦で見せた「アーリークロスと正確なダイレクトパス」
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。