41歳ダレッサンドロ引退。“頭でっかち”でいつも必死なブラジルで愛されたアルゼンチン人
かつてワールドユース(現U-20W杯)とアテネ五輪で優勝の原動力になったアルゼンチンの名手がついに、22年間のプロ生活に別れを告げた。アンドレス・ダレッサンドロ(Andrés D’Alessandro)、1981年生まれの41歳。2000年にリーベルプレートでデビューし、ボルフスブルク(03-06)、ポーツマス(06)、サラゴサ(06-08)と欧州でプレー後は南米に戻り、サンロレンソ(08)、インテルナシオナウ(08-16)、リーベルプレート(16)、インテルナシオナウ(17-20)、ナシオナル(21)、そして今年1月から三たびインテルナシオナウに在籍した。他のアルゼンチン代表スターとはまた違う、“カベソン”(頭でっかち)らしい愛すべき選手人生をChizuru de Garciaさんが振り返る。
こんな“引退試合”は見たことない
40歳を過ぎたレジェンドが、そこで引退することだけを目的に3度目の復帰を果たした最愛のクラブで迎える最後の試合――そんな筋書きから想像できるのは、その選手が後半の途中から交代出場し、あわよくばPKを蹴らせてもらい、終始和やかな空気に包まれながら有終の美を飾るといった光景だろう。
だが、アンドレス・ダレッサンドロの場合は違った。
2022年4月17日、インテルナシオナウのホーム、エスタジオ・ベイラ・リオで行われたカンピオナート・ブラジレイロ・セリエA(ブラジル1部リーグ、通称ブラジレイロン)のフォルタレーザ戦で、2日前に41歳の誕生日を迎えたばかりのダレッサンドロは腕にキャプテン章を巻き、先発メンバーとしてピッチに登場した。そして右足首の捻挫から回復したばかりとは思えないほど積極的に動き回り、前半のロスタイムにPKで相手に1点リードを許した直後、ゴール前右サイドでボールを持つと2人のマークをかわしながらペナルティエリア内に入り込んでシュート。フォルタレーザのGKが弾き損ねたボールが角度を変えてゴール上部に突き刺さった瞬間、凄まじい形相でピッチ脇を疾走した。そしてサポーターの大歓声に包まれる中、仲間たちに囲まれて祝福されたダレッサンドロの表情は、まるで全力を出し尽くしてフルマラソンを走り終えたランナーのように陶酔し切っていた。
ボールが絡むと、ダレッサンドロはどんな時でも「必死」になる。子供の頃から頭に血が上りやすく、その熱い性格はプロデビューから22年経ってもまったく変わらなかった。フォルタレーザにPKが与えられたことに腹を立て、主審に激しく抗議してイエローカードをもらってしまった展開もダレッサンドロならではだ。インテルナシオナウのサポーターは、いつも必死で熱い「ダレ」が最後まで自分らしさを見せてくれたことに感謝し、感動し、72分にチームメイトと交代させられてピッチを去った時、この偉大なキャプテンに惜しみない拍手と歓声を贈った。
母国ではないサッカー大国の名門クラブでサポーターから溺愛され、現役生活最後となるホームゲームでキャプテンとして先発出場し、同点ゴールを決めて狂喜し、目をひんむいて主審に抗議して警告を受け、子供のように顔を歪めて泣きじゃくりながらピッチを去った40代の選手の例が他にあっただろうか。
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Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。