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アヤックス3連覇への3パート。[4-4-2]変更を恐れない名将テン・ハフの柔軟性

2022.05.18

今シーズン前半のアヤックスはリーグ戦でもCLグループステージでも圧巻のパフォーマンスで結果も伴ったが、後半戦は各チームの対策が進み、苦しむことになる。それでも強力なライバル、PSVの追撃を振り切れたのは、勝者の伝統と名将テン・ハフの柔軟性があったからだろう。指揮官がマンチェスター・ユナイテッドへと去り、1つのサイクルを終えたアヤックス。欧州でも屈指のチームへと返り咲いた名門の現体制ラストシーズンを中田徹氏が総括する。

 エリック・テン・ハフ率いるアヤックスが第33節のヘーレンフェーン戦を5-0で制し、オランダリーグ3連覇を達成した。

 在任4年半でオランダリーグ3回、KNVBカップ2回、ヨハン・クライフ・スハール1回。コロナで中止になった19-20シーズンでは優勝というタイトルこそつかなかったが、首位だったということで翌季のCLストレートインを勝ち取った。さらにCLの舞台では18-19シーズンがベスト4、今季はラウンド16で散ったがグループステージを6連勝という圧巻の強さで世界を驚かせた。

ドルトムント相手に1-3で逆転勝利を収めたCLグループステージ第4節、全勝で決勝ラウンド進出を決め記念撮影に応じるアヤックスのメンバー

無敵のアヤックスに現れた弱点

 今季のアヤックスは昨年末にPSV首位の座を譲ったものの、それでも2月半ばまで素晴らしいサッカーを披露しており、オランダリーグ第23節を終えた時点で得点70失点5という驚異のスタッツを誇っていた。しかし、他チームが徐々にアヤックスの欠点を突く方策を見出し始め、終盤戦のアヤックスは苦戦の連続だった。ざっとアヤックスの弱点を並べると、以下になる。

・攻撃で相手を圧倒している時、守備の備えで人の配置が非常に甘い。
・CBコンビ(ティンバー&マルティネス)の身長が低いため、サイドをえぐられてからの低く速い浮き球のクロスに抵抗できない。ブリントがCBに入った場合も競り合いに行かないことが多々ある。
・アンカーのアルバレスは、アヤックスのMFとしてはテクニックが高くないから、対戦相手は①アルバレスをボールの取りところにして厳しくチェックする。②アルバレスにボールをフリーで持たせるとビルドアップが停滞するから、あえてチェックに行かない――という二択が生まれた。
・CBコンビがボールを持つと、アルバレスは彼らのためにスペースを作る。しかし、アンカーにフラーフェンベルフが入るとボールに寄ってしまって、それまで築いてきたオートマティズムが失われてしまう。特にCBはドリブルインするスペースが見つけづらくなってしまい、中盤で数的優位を作るオプションが減った。

アヤックス攻略の糸口として目をつけられたアルバレス

 アヤックスの対戦相手は、自陣で引いてみたり、真っ向からプレスを仕掛けてビルドアップ潰しに挑んだり、それぞれの方法でアヤックスの弱点を突いた。こうしてアヤックスは第24節から第29節までの6試合で5勝1敗という好成績の割には、守備面での脆さを露呈して失点10を喫した。

終盤に強い王者の血――辛勝で勝ちを拾い続ける

 しかし、彼らには「終盤に強い」という武器があった。この時期(第23節、第30節を含む)、彼らが辛勝した試合の決勝ゴールの時間帯を並べてみよう。

第23節 対ウィレムⅡ(A)0-1 決勝ゴール:90分 ティンバー
第25節 対RKC(H)3-2 決勝ゴール:90分 タディッチ
第26節 対カンブール(A)2-3 決勝ゴール:90分 フラーフェンベルフ
第27節 対フェイエノールト(H)3-2 決勝ゴール:86分 アントニー
第28節 対フローニンゲン(A)1-3 決勝ゴール:45分+ タディッチ
第29節 対スパルタ(A)1-2 決勝ゴール:62分 タディッチ
第30節 対NEC(A)0-1 決勝ゴール:88分 ブロビー

 実に6勝中、4試合が試合終了直前の劇的なゴールだったのだ。残る2試合もともに薄氷の逆転勝利だった。さらに付け加えると、フローニンゲン戦の同点弾(クラーセン)と逆転弾はともに前半アディショナルタイム、ダメ押しの3点目(ベルフハウス)は後半アディショナルタイムに生まれたものだった。この時期の彼らに『攻撃的で、試合を支配し、華麗に攻め込むアヤックス』という姿はない。

第25~30節の6試合で3つもの決勝点を挙げた、10番と腕章を身に纏うタディッチ。写真は第29節のスパルタ戦

右サイドの不安で[4-4-2]で再構築

……

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アヤックスアルフレッド・スフローダーエリック・テン・ハフ戦術

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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