2014、2018年W杯でのベスト16に続き、EURO2020では優勝候補フランスを破ってベスト8進出を果たし、2022年W杯でも本選出場を決めているスイス。規模的にはむしろ小国でありながら、サッカーで成長を続けているのは偶然ではない。その理由の一つに、指導者の評価システムの確立があるという。ドイツで開かれた指導者講習会にてその一端に触れた中野吉之伴さんが、その内容をレポートする。
スイスサッカーから学ぶことは多い。
世界的なサッカー大国ではない。アルプス山脈を中心とした山岳地帯が多いスイスは国土面積でみたら九州をひと回り小さくしたくらいだが可住地面積で見たら相当に狭く、スイスサッカー協会の登録会員数は約28万人で日本のそれよりも少ない。サッカークラブの総数は1400弱。国内リーグはUEFAランキングで19位で、代表チームにしても1970年から2002年までの間、ビックトーナメント17大会中予選突破を果たしたのはわずかに2回に過ぎなかった。
立地条件・環境からしたら理想的とはとても言えないそんなスイスが、ここ最近は国際舞台でも目覚ましい活躍を見せている。昨年のEURO2020では優勝候補のフランスを打ち破ってベスト8。準決勝ではスペインにPK戦の末に敗れたが、その戦いぶりは世界のサッカーファンに力強い印象を残したはずだ。
昨年、ドイツプロコーチ連盟(BDFL)とヘッセン州サッカー協会共催で行われた指導者講習会に参加した際、「スイスではどのような育成が行われているのか」についての講義が行われた。今回はその内容の一部ついて紹介したい。
始動記録を管理する責任がクラブにある
講師として招待されたのはf。スイスの名門バーゼルで長年育成コーディネーターを務め、スイスサッカー協会の指導者育成にも多大な貢献をしている人物だ。
講義の冒頭、司会役を務めていたヘッセン州サッカー協会の専任指導者が「スイスでも指導者が次のライセンスに挑戦するという時、《どんな指導者がライセンス講習会に参加すべきか》という点で問題は起こり得るか?」と質問した。
ドイツではライセンス講習会に申し込む際、「ライセンス所得後最低1年間はドイツサッカー協会に登録されているクラブに所属し、指導者として経験を積む」という要綱があるのだが、正直なところ《所属してさえいれば》、そして協会が求める最低限度の指導者としてのクオリティをトライアルで示すことができれば、次の指導者講習会に参加することができる。つまり、実際には1年間特に指導者としての経験を積むことなく過ごしていたとしても、クラブサイドからの「1年間はうちのクラブで指導者をしていました」という後ろ盾さえあればオッケーになってしまうわけだ。下位ライセンス講習会だと参加者のモチベーションが高くなく、指導教官もそこまで多くを求めないまま修了し、それでもほとんどの人にライセンスが発給されるという事例がないわけではないのである。
さすがに最近はトライアルによる審査も厳しくなってきていて、誰もかれもがライセンスを取得できるというわけではない。特に上位ライセンスに関しては要求されるものが多岐にわたり、かなりのクオリティがないと受講することもできないようになってきている。
果たして、スイスではどうなのだろう。
質問を受けたシュミットはひと言「あり得ない」とよく通る声で答えた後、その理由をこう説明した。
「いろいろな国でコロナ禍の間に、指導者関連のデジタル化が進められているという話をよく聞く。だが、スイスにおけるデジタル化というのは1996-97シーズンからすでに導入されているのだ。
スイスでは、各クラブが育成指導者を正しくコントロールしなければならないような仕組みが出来上がっている。……
Profile
中野 吉之伴
1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。