4月27日にアンフィールドで行われたCL準決勝の第1レグはホームチームが先勝。3年前の欧州王者で今季は4冠に挑戦中のリバプールが圧倒的な力の差を見せつけながら、ビジャレアルもエスタディオ・デ・ラ・セラミカが舞台となる5月3日の第2レグに望みを繋いだ“前半90分”を西部謙司氏が振り返る。
スコアは2-0。ボールポゼッションはリバプール67%、ビジャレアル33%。枠内シュートは5対0。試合後のスタッツ通りの内容と言っていい。むしろ点差が2点に終わったのが不思議なぐらいだ。
ビジャレアルで最もパス本数が多かったのがGKヘロニモ・ルジだったというのは象徴的だ。25本のパスはCBのラウール・アルビオルより3本、パウ・トーレスより4本多かった。リバプールではチアゴ・アルカンタラが最多93本のパスをさばき、成功率は96%。ほぼノーミスだ。
リベリーノを想わせる、あからさまなうまさ
チアゴはこの試合のピッチの王様だった。
ハーフタイムと試合後、どちらもテレビカメラはチアゴを追っている。得点もアシストもしていないが、この夜に関してはマラドーナやジダンに匹敵するプレーぶりだったのだ。スピードとハードワークで相手をぐうの音も出ないほど追い詰めるのはリバプールにとっていつものことだが、このチームにフィールドの舞踏家はいなかった。闘うチームに1人のアーティストが加えられたことで、リバプールは格段に洗練されたチームに見えた。
立ち上がり、左から逆サイドのモハメド・サラーへの誘導ミサイルのようなパスと、それに続く左へ落とすピンポイントのパス2本で、ビジャレアルのハイラインを消滅させた。
53分には左サイドでトレードマークの右足アウトを使ったファーストタッチで背中の相手をはがすと、中央のサディオ・マネにパス。マネからサラーを経由して右サイドへボールが流れ、ジョーダン・ヘンダーソンのクロスが対応した左SBペルビス・エストゥピニャンの足に当たってコースが変わりゴールイン。ラッキーな得点ではあったが、もはや時間の問題でしかなかった。
55分、サラーの股抜きパスにオフサイドぎりぎりでマネが抜け出し、GKの鼻先で右足を伸ばしてボールをつついてゴール。2-0とした。足を伸ばし切った状態から、もうひと伸びするマネ独特の身体能力だ。テレパシーで通じ合うようなサラーとマネのデュオがこの夜もゴールを生み出している。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。