いわてグルージャ盛岡が面白い。J2初昇格となった今シーズン。いきなり開幕戦でジェフユナイテッド千葉をアウェイで沈め、J2初勝利を手にすると、3月終了時点で6位につけるなど、周囲の予想をポジティブに裏切る躍進を見せた。現在は5連敗と苦戦中だが、J2初昇格の期待と高揚は続いている。今回は、地元のグルージャを東北社会人リーグ時代から見つめてきた高橋拓磨が、「クラブが続いてきた幸せ」に思いを巡らせる。
戦術?システム?監督?それとも資金力?
「“J2初昇格のいわてグルージャ盛岡、快進撃の理由”というテーマで原稿を書いてほしい」
寝耳に水。青天の霹靂。今回の執筆依頼を受けた時、こんな言葉がぴったりの感情に陥った。
理由は「footballista」という媒体の特性と岩手というチームにリンクする部分がイメージできなかったからだ。「footballista」といえば、戦術の最先端を取り上げ、特に欧州の話題が多く並ぶ媒体。筆者自身、愛読誌の一つでもある。
一方で岩手のサッカーは取り立てて特異性のある戦術やシステムを採用しているわけではなく、むしろよりベーシックな部分にフォーカスしているようなチームだ。それでも快進撃の理由をあらためて考えることは非常に意義深く感じるし、実際にその源流が何にあるのか、明確な答えがすぐに出てこないのも正直なところだ。
戦術? システム? 監督? それとも資金力?
そのどれでもあるかもしれないし、どれでもないのかもしれない。ただ一つ言えるとすれば、チームを取材し続けてきた筆者だからこその答えを見出せるかもしれないということ。そんな期待感や使命感を持ちながら、昨シーズンから続く岩手の快進撃を支えるものを探っていきたい。
下馬評を覆す序盤戦の快進撃
まずは3月までの成績を振り返る。
今季J2に初めて昇格した岩手。その序列を考えれば当然なのだが、シーズン前の各メディアの順位予想では、最下位とする声が相次いだ。それでも予想に反して、開幕戦で“オリジナル10”の千葉を破ると、第4節までは勝ちと負けを繰り返す展開。その後、ホーム2連戦となる栃木戦、山口戦をともにドローで終えた後、アウェイで岡山を破り、3勝2分2敗の勝ち点11と上々のスタートを見せた。
試合数が少ないとはいえ、プレーオフ圏内にも名を連ねる光景は多くの岩手県民、またサッカーファンにとってもセンセーショナルなニュースだったに違いない。4月に入り5連敗と停滞しているものの、序盤戦にフォーカスすれば快進撃と表現するにふさわしいパフォーマンス、そして結果を残した。
岩手を一言で表現すれば、カウンターとセットプレーのチームである。最終ラインには高さと強さを特長とする選手を並べ、堅い守備網を敷きながら、縦に鋭いパスを通して攻撃に転ずる。相手の守備が整う前に攻め切り、セットプレーを獲得できれば中村太亮という一級品のプレースキッカーが高精度のボールを供給。中で合わせる選手の高さを生かすのはもちろんだが、デザインされたプレーの種類も豊富で大きな得点源となっている。
これは秋田豊監督がJ3時代から作り上げてきたものであり、それがJ2の舞台でも効果を発揮している。システムもベースの[3-4-2-1]に加え、1アンカー型の[3-5-2]も採用し、少しずつ戦い方の幅を広げており、これによってボール保持時に力をみせる和田昌士、中村充孝、増田隼司なども活躍のシーンが増えてきた。
存続の危機に3度直面したJ3時代
昨季、J3で2位になり、初の昇格を決め、今季の戦いに臨んでいる岩手だが、社会人リーグ時代には全国地域サッカーリーグ決勝大会、通称“地決”の壁に何度も阻まれ続け、さらにJ3時代はクラブの存続そのものが危ぶまれる事態を何度も経験してきた。……
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Profile
髙橋 拓磨
1981年生まれ。岩手県釜石市出身。編集プロダクションを経て、2010年よりフリーランスとして活動。岩手県内のジュニアからユース世代まで幅広く取材するほか、2015年からはサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』でいわてグルージャ盛岡の番記者として取材活動を続けている。Standardのほか、サッカー専門誌やWEB媒体へも寄稿。いわてグルージャ盛岡など岩手県のサッカー情報を発信する『Iwate Football Freaks』も運営している。