
近年、サッカー界でも注目が集まっている「NFT」。欧州ではファントークンに続く新たなデジタル資産として導入する動きが活発化しており、イングランドの名門リバプールも去る3月に販売を開始したが、ファンからは疑問の声が相次いで上がっているという。その論点をリバプール・サポーターズクラブで日本支部代表を務める田丸由美子氏に解説してもらった。
デジタル資産でコロナ禍による停滞を解消?
3月24日、リバプールは「LFCヒーローズ・クラブ」の誕生を発表した。このクラブ初となる公式NFTの一つ、「Hero Edition」はスーパーヒーローに扮したユルゲン・クロップ監督と23人の選手たち、計24人をイラスト化したデジタルアートだ。イギリス在住のデイル・エドウィン・マレー氏がイラストレーターを務めているが、1人につき服、小物、ポーズ、表情、背景の異なる7128種がアルゴリズムによって自動生成されており、総数は17万1072枚(7128種×24人)にも上る。すべて絵柄が異なるため、購入者は自分がどの選手のどの絵柄のイラストが手に入るかわからない状態でお金を払わなければならず、中身を確認できるのは販売終了から2日後。「どれが入っているかは、パッケージを開けてからのお楽しみ!」という、いわばトレーディングカード方式だ。
5-a-side from a pool of these Match Mode lads, GO!
Can't wait to see all the LFC Heroes Club squad combinations everybody will put together once all NFTs have been distributed.
Register for the March 30 sale to start assembling your full Heroes team: https://t.co/FSrTstMAdg pic.twitter.com/Enbj8jtOTi
— LFC Heroes Club
(@LFCHeroesClub) March 29, 2022
気になる値段は1枚75ドル(約9000円)で、英国の老舗オークションハウス「サザビーズ」が開設したNFTマーケットプレイス「サザビーズ・メタバース」より販売がスタート。10%はクラブ公式チャリティのLFCファウンデーションに寄付されるが、完売すれば1283万400ドル(約15億円)もの売上を生み出せる計算だ。
スポーツ界全体を見渡すと、2020年10月に先んじてアメリカのNBAがNFTをリリースしている。選手のハイライト動画を収めた「NBA Top Shot」が5カ月間で2億3000万ドル(約276億円)もの取引を記録すると、その成功を目の当たりにした国内のMLBやNHL(ナショナルホッケーリーグ)がNFT市場に続々と参入。今年1月にはメジャーリーガー大谷翔平のNFTが史上最高の10万ドル(約1200万円)で落札され、話題を集めたのが記憶に新しい。そのMLBでボストン・レッドソックス、NHLではピッツバーグ・ペンギンズを所有しているフェンウェイ・スポーツグループは、リバプールのオーナーでもある。アメリカで成功しているビジネスをイングランドに持ち込むのは自然な流れだろう。
そして何よりもサッカー界は成長が鈍化しつつある。3月に発表された20-21シーズン版のクラブ長者番付「デロイトフットボールマネーリーグ」における上位20チームの総収入を参考にすると、前季比で放映権収入こそ14億ユーロ(約1820億円)伸びたものの、コマーシャル収入は6%(2億2200万ユーロ/約289億円)減少した。同レポートでは「クラブとパートナー間の合意タイミング、その他にも様々な市場の流れが表れているため、パンデミック(新型コロナウイルスの流行)がクラブのスポンサー市場に与えた影響を判断するのは難しい」と結論づけているが、サッカーファイナンスの専門家キーラン・マグワイア氏は英紙『ガーディアン』で、「新契約が締結されてもスポンサー料は増額されていない」と指摘。例えば同季チェルシーは胸広告に「Three」を迎え入れたが、契約料は年間4000万ポンド(約66億円)と前スポンサーの「横浜ゴム」時代とほぼ同額で変化がなく、先行きに暗雲が立ち込めている。
残るマッチデー収入は1億1100万ユーロ(約144億円)と、コロナ禍で無観客試合が続き甚大な経済的損失を被った結果、「デロイトフットボールマネーリーグ」史上最低値を記録。収入総額こそ前季より1%伸びた80億2000万ユーロ(約1兆426億円)を記録したが、パンデミック前の2018-19シーズンと比べれば10億ユーロ(約1300億円)も低下しており、クラブは新たな収入源を必要としているのが現状だ。そこで近年欧州では、ファントークンをはじめとする「デジタル資産」ビジネスに参入するチームが続々と登場している。NFTに限れば昨年5月、マンチェスター・シティがイングランド勢で一足先に発売を開始。英国内でもレンジャーズが同年11月に2020-21シーズンのスコティッシュ・プレミアシップ優勝を記念するNFTを販売している。
その2つの流れに乗って今回、サッカー界の救世主として期待されるNFTを導入したリバプール。世界中に約5億8000万人ものファンを抱えているクラブ人気も考えれば、「Hero Edition」はあっという間に完売するかと思われた。
もう一度おはようございます @LFCJapan
Quick ask… which one of these Takumi looks do our Japanese fans like the most?
1, 2 or 3?
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Assemble your squad and enter the LFC Heroes Club, a first of its kind online fan experience and community: https://t.co/FSrTstuZlI pic.twitter.com/MLxHvbCczH
— LFC Heroes Club
(@LFCHeroesClub) April 3, 2022
NFTの正体は絵画でいう「鑑定書」
しかし蓋を開けてみると、実売は9721枚に留まっている。当初予定していた3月30日から4月1日までの販売期間を3日間延長したにもかかわらず、総枚数の5.7%しか売れなかった。その様子を見守っていたEMリヨン経営大学院のサイモン・チャドウィック教授は、販売終了3時間前にこんなツイートを投稿している。
「リバプール初のNFTは期待外れだ。17万1000枚以上のNFTを作成したのに、今のところ8000枚足らずしか売れていない。ファンはNFTの販売に反感を持っているか、内容の割に値段が高過ぎると思ったか、NFTというものをよく理解できていないか。理由はそのいずれかだろう。NFTマーケットでの道のりは、まだ先が長そうだ」
Liverpool's first NFT issue underwhelming. Of 171,000+ tokens available, fewer than 8,000 sold. Fans either object to NFT development, or they are too expensive for what they are, or they don't really understand them. NFT market still has long way to go…https://t.co/VO3mTzT7jM
— Professor Simon Chadwick (@Prof_Chadwick) April 3, 2022
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Profile
田丸 由美子
ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。