決して派手な補強ではないかもしれないが、実に効果的な選手たちが加わったことで、セレッソ大阪が着々とチーム力を充実させている。上門知樹、中原輝、毎熊晟矢。彼らはいずれも昨シーズンのJ2で、高いパフォーマンスを発揮していた実力者たち。新しく加入する選手をどうグループに組み込むかの設計図がはっきりと描けていることが、選手獲得にも小さくないアドバンテージをもたらしてきた。その戦略が導くクラブの未来を、梶野智チーム統括部長の言葉を交えて、C大阪を長年取材している小田尚史に展望してもらおう。
各ポジションでの切磋琢磨が導くチーム力の向上
昨シーズン途中にコーチから昇格する形で指揮官に就任した小菊昭雄監督が、始動から指揮を執る今シーズンのセレッソ大阪。開幕から目立つのは、チームの底上げと一体感だ。リーグ戦からメンバーを変えながら戦っているルヴァンカップは、3連勝でグループステージ突破に王手をかけ、リーグ戦もここまで8試合で2敗と粘り強い戦いの中から勝ち点を積み重ねている。
その原動力になっているのが、今季新たにチームに加わった選手たち。ルヴァンカップ第1節のガンバ大阪戦では、上門知樹と中原輝がさっそく得点して勝利に貢献すれば、ボランチでは鈴木徳真が持ち味を発揮。ルヴァンカップ第3節の大分トリニータ戦では、毎熊晟矢が4得点に絡む活躍を見せ、アカデミーから昇格1年目の岡澤昂星もプロデビューして初得点。高校2年生にしてすでにプロ契約をかわした北野颯太も、ルヴァンカップ第2節の鹿島アントラーズ戦でプロ初ゴールとなる決勝点を挙げるなど、アカデミー出身選手の台頭も目覚ましい。
左SBではここ10数年、不動のレギュラーを務めていた丸橋祐介からポジションを奪う形で、浦和レッズから加入した山中亮輔がリーグ戦で先発を掴むなど、既存選手との競争も激しさを増している。「各ポジションに同じレベルの選手をそろえて、どの選手が試合に出てもレベルの変わらないチームにと思って編成した」とはチーム始動会見における梶野智チーム統括部長の言葉だが、その見立て通りに高いレベルで拮抗した力を持つ選手たちが各ポジションで切磋琢磨する環境が、チーム力を押し上げている。
しっかりとした理念に基づく補強戦略の成功
補強が軒並み成功していると言える今シーズンだが、しっかりとした理念の下に行われている。
「セレッソは育成型クラブ。新加入選手もアカデミーから上がってくる選手も、セレッソで育って成長していける選手を獲ることをテーマにしている」(梶野チーム統括部長)
完成された選手をお金をかけて獲るのではなく、原石に目をつけ、ここからさらに伸びると思われる選手や、一芸に秀でた選手を獲得し、チームにうまく組み込んでいる。
一昨年はモンテディオ山形から坂元達裕、昨年はツエーゲン金沢から加藤陸次樹を獲得したが、彼らはJ1リーグ1年目から出場機会を確保し、チームの中心として活躍。坂元は2年間プレーした後、今冬にベルギー1部へ移籍した。当然、彼らの活躍は周囲にも伝わる。キャリアをステップアップさせようとする選手にとっても、C大阪でのプレーを選択することは、自身が活躍する姿を描きやすい。
今季はファジアーノ岡山から上門、モンテディオ山形から中原、V・ファーレン長崎から毎熊と、昨季のJ2リーグでベストイレブン級の選手をそろって獲得したことで注目を集めたC大阪だが、複数クラブとの競合の末に獲得した上門に対しては、強化部が期待するプレーなどを具体的に伝え、役割を明確に提示。「自分がより成長できるクラブだと感じた」(上門)ことが加入の決め手になった。また、J2の試合にもスカウトを派遣し、長いスパンで追いかけ、フィットしそうな選手をくまなくチェック。毎熊も「いち早くオファーをくれたのがセレッソだった」ことを加入の決め手に挙げている。
優れた個の獲得と海外への道筋の確立
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Profile
小田 尚史
2009シーズンより、サッカー専門紙『EL GOLAZO』にてセレッソ大阪と徳島ヴォルティスを担当。2014シーズンより、セレッソ大阪専属となる。現在は、セレッソ大阪のオフィシャルライターとしてMDPなどでも執筆中。