ベトナム代表との最終戦は1-1で引き分け7勝1分2敗、勝ち点22のグループ2位でアジア最終予選を終えた日本代表。序盤の不振を乗り越え目標であったカタールワールドカップ行きの切符をつかむことに成功した予選の総括と、半年後に控える本大会に向けたポイントをらいかーると氏が分析する。
日本代表はあと何回、“変身”を残しているのか。
歴史を振り返ってみると、日本代表とワールドカップの関係性は変身という言葉で説明できることが多い。日本代表の変身は本大会前に突然に行われたり、本大会中に行われたりすることもあった。
例えば、2010年の岡田武史監督による変身【[4-1-4-1]の採用】は多くの人を驚かせたに違いない。2014年にはアルベルト・ザッケローニ監督による変身【本大会での乱心】がチームを崩壊させたことも記憶に新しいだろう。そして、多くの人に衝撃を与えた変身が2018年に行われた【ヴァイッド・ハリルホジッチから西野朗への交代劇】だ。
変身によって結果が出たこともあれば、結果が出なかったこともある。何が言いたいかというと、予選と本大会でチームが別ものへと変身することが、今までに何度も見られてきたということだ。なお、変身の起源は2002年、日本対トルコ戦のフィリップ・トルシエの混乱がスタートと言われている。
最終予選での変身
森保一監督のチームはすでに変身を一度使ってしまっている。言うまでもなく、チーム発足から愛用していた[4-2-3-1]から日本対オーストラリアで使用した【田中碧と守田英正を中心とした[4-3-3]】だ。この変身によって、日本代表がワールドカップの出場権を獲得したと言っていいだろう。そういう意味では、森保監督の変身への決断は見事だと言っていい。実際に[4-3-3]を採用してからの日本代表は、相手の対策に苦しみながらもハーフタイムを挟んだ修正と、試合ごとに自分たちの問題を徐々に解決していく文脈を見せることができていた。
出場機会の少なかった選手たちを中心としたベトナム戦、守田が累積で出場停止になったオマーン戦でも[4-3-3]が採用されている。守田、田中の不在にもかかわらず[4-3-3]を採用したということは、この配置への信頼が高くなっていることを証明している。
ただし、オマーン戦とベトナム戦に限って言えば、後半から[4-2-3-1]に変更していることは興味深い。試合の中で[4-3-3] と [4-2-3-1] を行ったり来たりするのではなくはっきりと色分けする形になっていることは、現在の日本代表の特徴と言えるだろう。ただし、[4-2-3-1]への変更が新たな変身になるというよりは、[4-3-3]の配置ではにっちもさっちもいかない時の策という印象となる。
[4-3-3]への変身が結果に繋がった最大の理由は、田中と守田の同時起用によるものだろう。日本代表の自陣からの前進は、というよりはゲームメイクは、歴史的に誰かの“特殊能力”に頼ることが多くなっている。ぱっと思い出すだけで、遠藤保仁、柴崎岳、香川真司といったゲームメイカーとそのサポートをする選手にすべてを託している格好となった。その役割が守田と田中に託されたわけだが、同じチーム、哲学の下でプレーしていた両者の協力関係は見事だった。川崎フロンターレでの記憶が日本代表を助け、谷口彰悟、山根視来、旗手怜央、三笘薫と同じ記憶を共有した選手たちの出番も同時に増える流れとなっている。
コロナ禍や欧州組の合流の都合で、チーム作りをする時間はどんどんなくなってきている。これまでの代表選考も代表で同じ時間を共有してきた選手を登用することが見られてきたが、森保監督が示した同じチームで目に移してきた環境が似ている選手を多く登用するスタイルも今後はスタンダードになってくるかもしれない。
“川崎化”がもたらしたものと問題点
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。