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セットプレー戦術に新トレンド?「キックオフ」が得点源に変わる可能性を探る

2022.03.31

3月14日に開催されたセグンダ・ディビシオン(スペイン2部)第31節、ともにバスク州に本拠を置くエイバルとアモレビエタが激突したダービーで、驚きのゴールが生まれている。試合開始を知らせるホイッスルが鳴ってからわずか7タッチ、リーグ史上最速の8.7秒でエイバルが決勝点を奪ったのだ。果たしてキックオフは、コーナーキックやフリーキックと同様の貴重な得点源として機能するのか?サウス・ウェールズ大学に通う学生アナリストの白水優樹氏に可能性を探ってもらった。

 ビルドアップやプレッシングの局面でそれぞれ最適な戦術が模索されているように、フリーキックやコーナーキックといったいわゆるリスタート時においても「セットプレー」として、それぞれ効果的な戦術が考えられています。その中でも近年、注目を集めているのがゴールキックです。

 19-20シーズンの競技規則改正で味方選手のみペナルティエリア内でボールを受けられるようになったことで、最後尾で時間とスペースを確保しながらプレーを再開できる利点を生かそうと、より積極的にショートパスで前進しようとする攻撃側のチームが増えてきました。実際、同シーズンのCLではゴールキックをショートパスで繋ぐ割合は24%でしたが、20-21シーズンでは36%まで上昇。ゴールキック戦術が発展してきた結果だと考えられます。

 一方で守備側からすると敵陣でボールを奪えれば一気にゴールへ迫ることができます。そこでDFラインを大胆にハーフウェイラインまで押し上げてハイプレスを仕掛けるチームも少なくありませんが、マークを噛み合わせ続けながら自陣に残された52.5m×68mものスペースを管理するのは難しく、その守備戦術を逆手に取る方向へ進化しつつあります。具体例としては挙げられるのは、プレミアリーグ第26節のマンチェスター・シティ戦でトッテナムのデヤン・フルセフスキが決めた先制点です。

 [4-3-3]で積極果敢にボールを奪いにきたシティに対して、[3-4-2-1]のトッテナムはピッチいっぱいに陣形を広げながらゴールキックを右サイドに蹴ると、すかさず逆サイドのCBへ展開。3トップと3センターのスライドが間に合わないシティは、相手の左ウイングバックが空くのを防ぐために、DFラインから右サイドバックのカイル・ウォーカーを押し出します。その背後のスペースに流れてきたのが、2シャドーの一角であるソン・フンミン。彼にアンカーのロドリが釣り出されると、今度は空いた中盤に1トップのケインが降りてきます。ボールを引き出しながらロドリとDFラインの注意を集めたケインのダイレクトパスに、オフサイドぎりぎりのタイミングでソン・フンミンが抜け出してGKと1対1のビッグチャンスを迎えると、その横パスを逆サイドから駆け上がってきたもう一人のシャドー、クルセフスキが無人のゴールに蹴り込みました。後方でボールを繋ぎながらプレスを誘き寄せつつ、機を見て素早くボールを送り込み前線のタレントを生かすアントニオ・コンテ監督のスタイルが見事に噛み合った得点です。

https://youtu.be/F6zuzaAhQ2o?t=5
プレミアリーグ第26節マンチェスター・シティ対トッテナムのハイライト動画。該当の得点シーンは0:05から

 こうしたセットプレーのメリットは、一度チーム全体の配置を整理することができ、毎回同じ形からプレーを始めることができるという特徴です。「再現性」を持ってゴールを目指すことができるというメリットがあるため、フリーキックやコーナーキックだけでなくゴールキックまでもが綿密に設計される時代となりつつあります。しかし、同様に高い再現性を持っていながらも脚光を浴びてこなかったセットプレーもあります。その一つが「キックオフ」です。

エイバルとボーンマスのケーススタディ

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エイバルキックオフボーンマス戦術

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白水 優樹

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