3月24日にオーストラリアで開催されるW杯最終予選のオーストラリア対日本。その大一番を控える両国が苦しい状況に陥っている。日本では大迫勇也、酒井宏樹、前田大然の主力級3人が招集辞退。一方、オーストラリアはそれ以上の緊急事態に直面している。現地在住ライターのタカ植松氏に解説してもらおう。
これまで長きにわたり数多くのガチンコの名勝負を紡いできた「日豪戦」。その健全なライバル関係の下で日豪両国の対戦では、いつもフェアでクリーン、なおかつ見応えのある戦いが繰り広げられてきた。
だが、現行フォーマットでのW杯最終予選の真剣勝負では事実上最後となるかもしれない今回の対戦は、少し、いや、かなり様相がこれまでとは異なる。かつて、日本はこんなにも危機的な状況のサッカルーズ(オーストラリア代表の愛称)に相対したことがあっただろうか。サッカルーズは難敵相手に勝たねば後がないという崖っぷちに立たされているだけでなく、今までにないレベルの危機的状況下で絶体絶命の状況に喘いでいる。
ムーイ、アーバイン、そしてロギッチまで…中盤が壊滅状態
筆者が暮らす豪州では、コロナ禍の収束がようやく見通せるようになってきた。マスク着用ルールなどの目に見えた規制も順次撤廃される中で、まさか、ここに来て代表チームがここまでのコロナ禍の直撃を受けるとは、誰も思っていなかったろう。主力メンバーのコロナ関連での離脱、さらにはグラハム・アーノルド監督の2度目のコロナ感染とその後のゴタゴタ。果たして、まともな状態で試合当日を迎えられるのか――そんなことを大事な試合の前に真剣に心配されてしまうような状況にあるのが、今のサッカルーズであり、それは隠しようのない現実だ。
まずは、今回の大一番に臨むメンバーをめぐる状況を整理しておく必要があるだろう。16日の代表メンバー発表の時点で、すでにいくつかのあるべき名前が抜けていた。その中でも一番目を引いたのが、若返りが進むチームの中で経験豊かな中盤の要として存在感を見せてきたMFアーロン・ムーイ(上海中港)の不在。中国リーグのオフで滞在したスコットランドでコロナ感染とのことだが、大事な試合を前に痛いロスとなった。ムーイの欠場で中盤の構成を考え直す際、真っ先に起用されるべき若手有望株MFライリー・マッグリー(ミドルスブラ)もふくらはぎのケガからの回復が遅れて招集見送りとなった。
さらに、サッカルーズをとどまることを知らない凶報が襲う。20日の夜、ドイツから帰国の途に就く直前にレギュラー格のMFジャクソン・アーバイン(ザンクトパウリ)のコロナ陽性が判明。同時に国内Aリーグで切れの良い動きを見せていたFWクレイグ・グッドウィン(アデレード・ユナイテッド)もコロナ陽性者の濃厚接触者となり、ともに合流を回避。試合前々日(22日)には、前田大然や旗手怜央のチームメイトとして日本のファンには一番なじみの名前であるMFトム・ロギッチ(セルティック)が、代表合流直前の試合(対ロス・カウンティ戦)で負傷した足首の回復が思わしくないとのことで帰国を取りやめるなど、中盤に関しては、まさに「そして誰もいなくなった」状態に陥った。
当然、追加招集はされはしたが、ロギッチ辞退と同時に伝わってきたDFカイ・ロールズ(セントラル・コースト)のコロナでの離脱を埋めるCBの招集に留まり、中盤の主力の抜けた穴は現有戦力で埋めるしか術は残されていない。
アーノルド監督の隔離ルール違反が追い打ち
と、選手関連の動きだけでも書き切れないくらいだが、まだまだある。今回のオーストラリアの苦境で特筆すべきは、18日に発表されたグラハム・アーノルド監督自身の2度目となるコロナ感染とその後日譚。1月にホームでのベトナム戦でもリモート指揮を余儀なくされた同監督だが、まさか、この大事な試合前にもあわや指揮官不在の危機を招こうとは、本人を含めて誰が予想しただろうか。……
Profile
タカ植松
福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。成蹊大卒業後、一所に落ち着けない20代を駆け抜けてから、アラサーでの国外逃亡でたどり着いたのがダウンアンダーの地。豪州最大の邦字紙・日豪プレスでスポーツ関連記事を担当後、フリーランスとして活動を開始。豪州フットボール事情というニッチをかれこれ15年以上守り続けて、気が付けばアラフィフ。オージー妻に二児の父。